特集

Field of Dreams W
 
 ここ数年、会計士も監査関係だけでなく多方面で活躍されています。とはいっても、実際どのような仕事をされているのか知らない事が多いと思います。
「Field of Dreams」は、他業界では活躍されている会計士の方に「働くきっかけ」、「仕事の内容」、「職場の環境等」を寄稿していただき、多方面で活躍されている会計士の方を紹介させていただく企画です。
 この企画で、他業界での仕事の内容を紹介することにより、興味を持っていただいた方が「私も挑戦したい」と思っていただければ幸いかと思います。     (会報部)
 

付加価値を求めて

宮明 靖夫

1. はじめに
 日本銀行に勤務している宮明と申します。今回、監査法人勤務時代の上司から寄稿依頼があり、会計士の活躍の幅を広げる一助になればとの思いで、引き受けさせて頂きました。ただ、転職してまだ2年あまりで、まだ1つの部署しか経験していないため、部分的なお話ししかできないことを予めご了承下さい。
 私は、通っていた大学で会計士を目指す人が多かったことと、資格があれば後々役に立つこともあるかもしれない、という軽い気持ちで、会計士の勉強を始めました。そうして、何とか大学在学中の平成4年に2次試験に合格し、ある大手監査法人に入所しました。
2. 監査法人勤務から転職へ
 入所後は、監査部門で法定監査や上場支援業務という、極めて平均的な会計士のキャリアを積みました。3次試験合格後は少しずつ主査も任され、充実した日々を過ごしました。
 しかし、入所して5、6年もすれば、同期も減り、受験生時代の友人が他業界で活躍する話も聞くようになり、「何も考えずに監査法人に就職したものの、本当に自分がしたい仕事は監査なのか」と考えるようになりました。かと言って、仕事に特に不満もなく、仕事をやめて他にしたいことも特になかったので、そのまま監査法人で仕事を続けていました。
 そのような中、たまたま、日銀が新聞広告で企業アナリストを募集しているのを見つけました。監査法人での経験が生かせ、かつ、会計士とは違った視点で企業を見ることができるのではないかと思い、興味を持ちました。
ただ、この時も、「外部の人の評価はどんなもんやろ」という軽い気持ちでした。というのも、監査法人を辞める時は独立でもするのだろうと何となく思っていたからです。しかし、面接を受けて気持ちが揺らぎました。そうして、最終的には転職を決意し、9年間お世話になった監査法人を平成13年9月に円満退職し、翌10月から日銀で働くことになったわけです。
3. 日本銀行での仕事
 日銀には、主に物価の安定と金融システムの安定という役割があります。その役割を果たす手段の一つとして、金融調節を行っています。昨年12月時点では、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ以上になるまで」金融緩和を続けるものとし、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標に関わらず、一層潤沢な資金供給を行う」という金融調節方針を掲げています。
 そして、金融政策を適切に遂行するためには、実体経済や金融市場動向を把握しておく必要があります。このうち、主として、国内の実体経済面を私が所属する調査統計局が調査しています。日銀の調査統計と言えば短観が知られていますが、短観は調査統計局の統計部門が携わっており、調査部門にいる私は、直接には関わっていません。
 私は調査統計局の経済調査課という部署に所属し、文字通り、経済動向の調査や景気予測などに携わっています。経済調査課はマクロ経済とミクロ経済調査部門に分かれており、私は後者(正しくは、企業調査グループ)に所属しています。前者が、企業・家計・政府部門に関する様々なマクロ統計を分析しているのに対し、私の部署では、ミクロの視点から、設備投資動向、生産動向、人事政策、価格政策等を仔細に調査しています。マクロ、ミクロ両面から調査することにより、より正確に経済動向を把握できるのです。従って、企業アナリストと言っても、株式アナリストのように個別企業の分析をしているのではなく、エコノミストに近い仕事をしています。
 以下では、紙面の制約上、私の仕事のすべては説明できませんので、皆さんに馴染みのある会計・税制・企業法制度の調査や財務分析等を中心に、説明したいと思います。
 ご存知のように、会計制度変更により、会計の知識がないと、財務分析が困難になっています。例えば、含み益のある土地を再評価すると、土地残高が増加するため、土地が取引されているように見えます。更に、資本勘定は税効果会計の影響を受けています。従って、土地取引動向や財務構造の変化などを調査する際、解釈を間違えないよう、細心の注意が必要となるのです。会計制度の改正で企業財務の透明性が増した反面、時系列分析といった財務分析が困難になっており、会計士に対するニーズが高まっているのです。
 私に求められるのは、何も上記のようなテクニカルなものに限られません。今、景気は回復局面にありますが、景気分析には、過去の景気回復局面との異同を理解することも重要です。相違点は色々ありますが、その一つが企業法などの制度変更です。従って、例えば、会社分割法の整備で、リストラや企業再編などの企業行動にどのような影響を及ぼしたかといった分析が必要になってくるのです。
 また、日銀では、経済動向把握のため、本支店を通じて企業にヒアリングをしています。例えば、昨年6月に、日銀は、企業金融の円滑化のため、貸付債権や売掛債権などを裏付けにした資産担保証券の購入を決定しましたが、この際、売掛債権譲渡は、実務上問題点が多いとの指摘を多く聞きました。私は監査実務で債権流動化によく接していたので、企業の声を正確に報告することができました。
 変わったところでは、景気動向の説明のため、ある政党の勉強会に出席したこともあります。政治家やマスコミの方々に、日銀の政策を理解していただくのも、重要な仕事の一つなのですが、国会議員の方々の政治に対する熱い思いをひしひしと感じてきました。
 色々書きましたが、実際には会計に関係ない仕事も多くやっています。そのため、経済、金融、統計など勉強すべきことがたくさんあります。新会計士試験でも統計学が選択科目に入るようですが、監査も統計理論に基づいていますし、会計士も統計理論をもっと勉強しても損はしないのではないでしょうか。
 ただ、一言付け加えますと、今の仕事は、専門知識の習得よりも、物事を論理的に説明できるスキルの方が重要です。監査法人勤務時代は、業務の性格上やむを得なかったのかもしれませんが、細かい部分に深入りしがちで、全体感を持って物事を考える習慣が不足していたような気がします。今の仕事では、ミクロの企業行動からマクロ経済を捉えようとしているわけですが、すべての企業が同じ行動を取るわけではないため、なかなか大変です。そこで、・マクロ統計などから仮説を設定、・調査結果の仮説への当てはめ、・仮説の再検討、という作業を繰り返しています。どこかの雑誌ではないですが、一部分を取り上げて、まるで全体でもそうかのように誇張することは許されないのです。実体経済や企業金融への影響という大きな視点に立って、理論的に議論を構築しなければならない点が、今の仕事の最も難しいところです。
 今回は、私の業務内容しかお話しできませんでした。幸い、弊行の考査局長が、日銀の重要な責務の一つである金融システムの安定化という観点から、JICPAジャーナルの11月号の「視点」に寄稿をしておりますので、そちらも参考にしていただければと思います。
4. 最後に
 何かの縁で、それまで考えたこともなかった日銀で働くことになったわけですが、中途入行の苦労もある一方で、微力ながらも日本経済の再生に関わるというパブリックセクターならではのやりがいがあり、転職して良かったと思っています。
 それと、会計士業務についてですが、会計監査が重要な経済インフラである点は言うまでもないですが、会計士の活躍の場は、他にももっとあるのではないでしょうか。例えば、企業再生や債権・不動産証券化の分野では、デューデリ位ならやっているのでしょうが、その程度では、その分野でプレゼンスを高めるには限界があり、もっと積極的に関与すべきだと思われます。なお、日銀でも、会計士に対するニーズが高まっており、2次試験合格者を新卒採用したり、私以外にも中途採用しています。今も時々、会計士を募集しています。視界を広げれば、様々な分野が見えてくるのではないでしょうか。
 また、私がそうだったのですが、家庭を持つとリスク回避型の人間になりがちです。私が転職活動をしていた頃は、ちょうど、元阪神タイガースの新庄選手が、無謀と言われながらも大リーグのメジャーに挑戦していた時期でした。私は、新庄選手の活躍を見て奮起しました。「仮に失敗したら、その時は独立でもしよう」と、最後は開き直りました。経済面や専門能力を懸念し、方向転換を躊躇している方がいらっしゃいましたら、是非とも自分の信じる道に向かってほしいと思います。会計士として特別なキャリアのない私が何とかやっているのですから、きっと大丈夫です。
 とは言うものの、今でも、監査法人は恵まれた職場だと思っています。一頃に比べれば、仕事が大変になったとは言え、若いうちから経営者と接することができ、企業の仕組みも短期間で理解できるという職業はそうはないと思います。転職して改めて、監査の経験は貴重なものだったと実感しています。
 私は今、住み慣れた関西を離れ、東京で仕事をしていますが、東京にいると不景気がうそのようです。一方、関西は、製造拠点の海外移転と、東京への本社移転という構造問題(二重の空洞化)を抱えている上に、関空や明石海峡大橋などの大型公共事業も減り、不景気が続いてきました。しかし、液晶やDVDなどのデジタル家電分野では関西系企業が活躍しており、ようやく薄明かりが差してきています。消費面でも、阪神タイガースの活躍で、一定の経済効果があったようです。消費は可処分所得制約があり、雇用環境の悪い関西で、タイガース効果は期待できないとの見方もありました。しかし、情熱的な関西人にそのような教科書的な考え方は通用せず、関西人の底力を実感しました。最後に、関西経済の活性化や関西地域での会計士の活躍の場の広がりを期待して、筆を置かせて頂きます。