特集

Field of Dreams X

 
ここ数年、会計士も監査関係だけでなく多方面で活躍されています。とはいっても、実際どのような仕事をされているのか知らない事が多いと思います。
「Field of Dreams」は、他業界では活躍されている会計士の方に「働くきっかけ」、「仕事の内容」、「職場の環境等」を寄稿していただき、多方面で活躍されている会計士の方を紹介させていただく企画です。
 この企画で、他業界での仕事の内容を紹介することにより、興味を持っていただいた方が「私も挑戦したい」と思っていただければ幸いかと思います。     (会報部)
 

事業会社での業務の実際

横田 健一

 
 私は現在、稲畑産業(株)という商社に勤務しています。現在の肩書きは「財務経理室室長」です。
 当社に入社したのは、平成8年4月で、今年で9年目に入ります。その前は監査法人に5年ほど勤務しておりましたが、監査のように企業の外から関与するよりも、企業の中でやる方が自分に向いているのではないかと思うようになり、縁あって現在の会社で働くようになりました。
 稲畑産業について簡単にご紹介させていただくと、今年で創業114年を迎える一部上場の専門商社です。元々は染料から出発し、一般には化学専門商社に分類されることが多いのですが、今では化学品、合成樹脂のみならず、液晶、半導体などのIT関連商品、建材などの住宅関連、さらには食品に至るまで商材が広がり、世界12ヵ国の約50箇所に拠点を持つなど、海外展開にも積極的です。
 私の仕事は、入社以来経理畑が中心でしたが、現在は資金調達・運用、金融機関との折衝などの財務部門も担当しているほか、経営企画室のGM(部長職)も兼任し、経営計画、IR、全社的な経営戦略立案にも携わっています。多忙な毎日ですが、実際に会社を動かしているという監査法人時代にはなかった充実感を感じています。
 私が室長を務める財務経理室は総勢35名程度の陣容で、経理グループと財務グループとから構成されています。経理グループには、私の他に公認会計士の資格を有する者が4名、税理士1名、米国公認会計士1名が在籍し、かなりの専門家集団となっています。逆に言うと、企業の中にあっても、そうした専門知識を生かす仕事は数多くあるということだと思います。
 海外では、公認会計士の資格保持者が企業の中で多く働いていると聞きますが、日本でも公認会計士制度の改正、会計大学院制度の創設などを背景に、公認会計士人口が今後増えていくことが予想されます。そうすれば、日本でも一般の企業の中で働く会計士が今後増えてくるのではないでしょうか。
 ここ最近数年間の日本は、大きな国際化の流れを受け、金融、会計の世界では所謂「ビッグバン」の真っ只中にあり、当社も様々な大きな経営上の決断を迫られてきました。そうしたなか、企業経営における財務経理部門の果たすべき役割は過去とは比較にならないほど大きくなってきたと感じています。
 財務経理部門は経営に直結しているということがマネジメント層に強く認識されだしたのだと思います。こうした最近の傾向は今後とも一層強くなると思われ、会計士などの専門知識を有する者が企業の中で活躍するフィールドは広がっていくものと思われます。
 現在の仕事の中身について、もう少し触れてみたいと思います。現在私が担当する分野は大きく分けると、経理、財務、経営企画の三つになります。監査法人におられる方はこの中では経理部門の仕事に一番なじみがあると思います。ただ外部からわからないことかもしれませんが、企業内の経理部門で働く場合、有価証券報告書や商法計算書類の作成のような財務会計の仕事より、むしろ社内の部門別の採算管理、予算との比較分析、社内各部との折衝のような管理会計的な仕事の方にエネルギーを費やすことが多いのが実情です。会社内のほとんどの人にとって、情報開示や会計基準がどうかより、自分の部門の損益がどうなのか、今後どうすればよいのか、といった目先のことに関心があるのは当然であり、経理マンとしてはそれに如何に対応できるかが重要です。
 企業内で働く場合、専門知識はもちろん必要ですが、何よりも社内各部門から厚い信頼を得ることが優れた経理マンになるための最も重要な条件といっても過言ではありません。社内各部門からの信頼があってはじめて様々な情報が入手でき、自らの主張に説得力が生まれ、経理として、数字だけではない生きた管理が可能となるからです。専門知識をただ難しく話すだけの経理マンなら企業は必要としていません。これは財務についても同様ですが、財務はこれに加え、特に金融機関と良好な関係を保ちつつ、交渉する能力が必要といえると思います。
 経営企画部門についても、社内各部からの信頼が重要です。経営企画部門は様々なトップマネジメントの意向を社内各部に浸透させ、それを具体化していくことが重要な任務ですが、これは社内にかなりの軋轢を生じさせることも多々あります。社内各部との信頼関係がなければ、そうしたことを遂行することは到底不可能であることは明らかであると言えるでしょう。経営企画部門は社長のブレーンであると同時に、いわば「何でも屋」でもあります。専門知識より、会社のビジネスそのものに対する理解が必要であり、またいい意味での常識人であることが求められます。ただ社長の意向を汲み取り、それを具体化する過程において、「数字」は常に有効なツールの一つであり、その意味では数字に明るいということが、私の場合も一つの強みになっていると思います。
 ここで私の経験も踏まえ、企業で働く場合と監査法人で働く場合を少し比較してみたいと思います。
 一番大きなのは立場の違いです。監査法人で監査の仕事をする場合、基本的には、投資家のために第三者的立場で行動し、意見を表明します。これに対し、企業内で働く場合は当然のことながら会社の従業員であり、社長をトップとする経営層をはじめ、上司の指揮命令に従って働きます。経理部門で働くなら、もちろん会社が守るべき法令や会計基準に従うのは当然です。しかし、これらはあくまでも一般的抽象的法規範であって、具体的な事案においてどのように適用するかまでは書かれていません。会社は生き物であり、現実のビジネスの世界は法令や会計基準の設定者が想定するより、はるかに多様で変化に富んでいるというのが私の率直な感想です。色々な選択肢の中で、会社の現在と将来にとって何がベストであるか、会社の実情を踏まえて常に判断していかなくてはなりません。
 次に「資格」の扱い方の違いがあります。会社によっては、名刺に色々な国家資格を表示しているケースもありますが、当社の場合はそうした外部資格は全く名刺には表示していません。書くのはあくまでも会社での職制、ポジションのみです。また公認会計士の資格を有するからといって、それにより特に給与面で優遇されることもありません。企業内で働く場合、資格はあくまでも、その人の能力、保有する知識を証明する一つの資料にすぎないといえるでしょう。
 以上とりとめもなく書いてまいりましたが、この拙文が今後会計士の活躍するフィールドについて考える際のご参考になれば幸いに思います。