「トップインタビュ−」 第12弾
 
近畿会では、関西の我々とかかわる業界との相互理解を深め、協力可能な施策について関係機関との連携を図るための方法のひとつとして、各関係機関のトップに佐伯会長がインタビューをするという形式で意見交換を実施しております。第12回は関西学院大学学長との座談会を実施しました。

(会報部長 林 紀美代)

 

特集

関西学院大学学長インタビュー

日 時 2006年5月2日(火) 
出席者 関西学院大学  平松 一夫 (学長)
  日本公認会計士協会近畿会 佐伯 剛  (会長)
    林 紀美代 (会報部長)
    井上 浩一 (会報副部長)
 
はじめに
佐伯会長:
  本日はお忙しい中、お時間を頂き感謝申し上げます。 今日はこの1年間シリーズとして実施してきましたトップインタビューの総括として学者のお立場からお話しを伺おうと考えております。そこで、この1年に関西各界トップの方々と座談会を行った中で近畿会にとって重要と思われる四つのテーマ(地域貢献・法制度・公会計・国際交流)について意見交換をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 
地域経済への貢献
佐伯会長:
まず地域経済への貢献ですが、会計や監査といった分野は実務につながらないと意味がないと考えていまして、近畿会では関西経済活性化に向けて具体的に二つの活動をしています。
 一つは大阪商工会議所と共同で中小企業の資金調達研究会というものを立ち上げました。この目的は、中小ベンチャー企業の融資に際して財務情報(決算書)に加えて非財務情報例えば、環境・CSR・知的資産経営等の情報を活用し、いわゆるリレーションシップバンキングに利用することを狙っています。
 日本でもファンドを作って社会的な責任をになう企業に資金を出そうという動きが出てきています。又、中小ベンチャー企業では経営者の資質が最大のポイントとなるので、この経営者の経営方針・考え方を定量・定性情報の活用が必要となると思います。この研究会には近畿財務局及び近畿経済産業局からオブザーバーをお願いしています。
 こういう会計士協会が地域経済に根ざした活動をしなければならないと思うのです。そのあたりはどう思われますか。
平松学長:
 そうした動きには大賛成です。関西学院大学でも一部をやりはじめています。
 近畿経済産業局も後押ししてくれている宝塚市活性プロジェクトも一例です。このプロジェクトについては、昨年12月に総理大臣をはじめ閣僚が集まる都市再生本部に招かれて閣僚の前で発表もしました。産官学民が知恵をもちより、場合によってはお金も出すというような形で、大学としても地域経済活性化のために協力するというプロジェクトを推進しているわけです。
 宝塚はたまたま地元ですが、東大阪でも関西学院大学は活動を始めています。東大阪のクリエイション・コアにはいろいろな大学が入っています。関学は理工系が小さいので、特色を出すために文系で貢献しようと考え、例えばビジネスクリニックなどをしています。中小企業にはやはりビジネスの専門家がいないこともあります。そこで、関学の卒業生で、会計士、税理士、司法書士、弁護士といった人が無料で相談に乗って、その地域の中小企業の活性化に貢献しようということです。これは当初は無料で、本当に必要になってくれば専門家につないで有料でやってくださいという話ですが、それなども、学として地域の活性化のために何ができるかという意識をもってやり始めたことです。それから教育でも貢献しようということで、マイスタースクールを開設しています。
 今おっしゃっているように、近畿会が関西の活性化のために取り組んでおられることは、非常に大事なことだと思います。
佐伯会長:
  二つめは「バイオサポーターズ三会協議会」と言う、バイオに絞って大阪弁護士会・日本弁理士会近畿支部と組んだ活動を3年以上続けています。
 ただし、今ちょっと困っているのは、バイオに絞り込んでいるので、参加される弁理士さんの数が少ないことです。
平松学長:
  今の話にあるように弁理士の数はまだ少ないようですね。このことについても、関学として考えたことがあります。やはりバイオの世界のことで、理工学部の生命科学科では、生命科学を学びながら、それに精通した弁理士を育成する必要があるということで、指導的立場にある教授教員が提案していますが、まだ実現はしていません。何とかしたいなと思っているのですが。特にバイオは、関西の産業の中でもITや電器と並んで世界的な拠点を形成しています。これを近畿、関西としてどう育てるかは、非常に重要なテーマだと思います。関学としても小さいながら生命科学を作ったわけで、今後これをどう発展させていけるかが問題なのです。
 それから、関学では知財の教育を理工学部でも文系学部でも実施しています。さらに進んで、中学・高校から一貫して教育しないといけないというテーマになってきているわけです。知財教育については、我々も学内でやっと理解が深まってきたところですが、知財をこれからどう考えるか、そして弁理士の育成をどうするのか、もちろん知財に明るいその他の士(会計士、税理士、弁護士)を作っていくことも必要だということで、認識はできています。これから知的財産を創造し、保護し、活用することについて、関学としてどのように対応できるかと考えたときに、まず大学として我々が一番しやすいのは教育だと思います。
佐伯会長:
   いや、バイオに関してこんなふうに同じ認識をもたれ、かつ行動に移されているとは驚きました。
 バイオに関連するのですが、先程少し話しに出ましたCSRの議論をしていると、持続可能性、サステナビリティの考え方が学者や実務家・企業家の常識になりつつあります。 例えば、日本の農耕民族の話があって、我々日本人は、四季や土地・水等の自然サイクルの中で生産活動をし、文化を築いてきました。一方、アングロサクソンは狩猟民族として獲物を求め移動し、家畜を放って草木を取り、無くなれば森林を伐採して生活を維持してきました。このように、おのずと日本と欧米では思考のベースが違いますが、サスティナビリティーの考え方はこれまでの日本的思考と重なる部分が多く、従来から日本人は企業の社会的責任、環境サイクルを受け入れる素地を持っているわけで、だからCSRとか環境、バイオなどの話も、最終的にはごく当たり前のところに議論が落ち着きます。
平松学長:
  環境についてはこのキャンパス自体がそういう発想で守られています。「自然を守る」ということで、もちろん建物を建てたら自然を壊しているのですが、例えば今ある建物を拡充するときにも木は切ってはいけない、水の流れを変えてはいけないということで、そういう規制もありますけれども、自主的に環境保護と取り組んでいます。
 神戸三田キャンパスでは、コンビニエンスストアをキャンパス内に作ろうという話になり、当初は便利なところに作ろうとしたのですが、そのキャンパスにいる教職員が反対したのです。たしかに便利になるけれども、自然環境が壊れるから、というのが理由です。
 これからは、企業だけではなくて、大学も環境報告書の作成が求められる時代になるのです。
佐伯会長:
  国立大学等の地方独立行政法人が対象となる制度ですね。
平松学長:
  私立大学はまだなのですが、そういう動きになっているのです。ですから、地球規模の環境問題を研究するだけでなくて、大学人はそういう意識をもって自らの大学を運営しなければならない時代になっています。おっしゃるように、これは日本固有の文化の中から出てくる発想でもあるわけです。しかし、同時に世界的に見ても大事な問題を文化的背景が異なるとしても我々としてどう取り組むかということが問われていると思います。
佐伯会長:
  小学校のときからそういう考え方を育成していくことは、本当に大事だと思います。
平松学長:
  そのとおりです。これからは専門的知識を持つ人々がそういう問題に取り組み、それによって日本が健全な形で発展していくようにしていく。これは公認会計士や学者も含めた専門家の責任だと思います。
 
会計・監査(公認会計士)と法律(弁護士)の連携
佐伯会長:
  今度は会計・監査といういわゆる公認会計士の業務と、法律、弁護士との関係なのですが、数年前から企業の再生とかデューデリ(財務調査)でけっこう弁護士と会計士はペアで働くことがごく当たり前になっています。内部統制も新会社法等で出てきましたが、ある弁護士と共同で開催した委員会で内部統制の話をしたら、アメリカの法律の考え方ではinternal controlモ corporate governanceも同義だというのです。ところが、日本の場合、それを扱う省庁(会社法〔法務省〕、金融商品取引法〔金融庁〕)が違うので適用される法律によって異なる解釈が生ずる可能性があります。よって実務に関わる側として、内部統制に関しリスク管理やガバナンスを議論するときには法的な部分と会計は極めて重なってくると思うのです。
 また、これから四半期で配当が可能になるので、会計士が法律的な事件(例えば違法配当)で株主代表訴訟の対象とされる可能性が高くなると予想されます。法律は実務で表裏一体ですから弁護士と会計士がもっと密着して活動する、その土台を大学で作っていくことが私は極めて大事だと思います。
平松学長:
  コーポレートガバナンスと内部統制はアメリカに行くと同じだという話がありました。確かに私が知る限りでは1970年代にすでにアメリカでコーポレートガバナンスという議論が盛んになされていまして、その結果として、日本で今いうところのものとは少し違うのですが、経営者の報告書、Management ReportとかReport of Management、あるいはReport by Managementという言い方をしていましたが、いわば宣誓書のようなものが年次報告書に掲載されていました。その中には内部統制の仕組みも含まれていて、決して全く違うコンテクストでは議論されていなかったと理解しています。
 今、日本ではおっしゃるように縦割り行政の中で違う文脈で話をされているとしたら、今は特に急に内部統制という議論がとりわけ出てきた、少し前には急にガバナンスの話が出てきたという事情があるように思います。それぞれがゆっくりと醸成されてきたというよりは、突如ある事件で出てきたような背景がありますから、まだ学界の中でもそういう論点について十分な体系化が試みられていないと見ていいのではないでしょうか。現状はおっしゃるとおりで、どこが担当して話をしているかによって言葉や文脈が違ってきているという状況がありますが、これはあまり悲観せずともそのうち収斂していくだろうと思っています。
佐伯会長:
 そうですね。聞くところによると法務省のスタンスは、内部統制について枠組みを作ったが、その中身は今後の実務慣行に任せるとのことなので、これから2〜3年かけて実務家や学者がきちんと検証をして、おかしな方向にいかないような警告を発することが大切だと思っています。
 ところで、実務家として気になるのですが、最近の傾向として、企業不正を立件しやすい有価証券虚偽記載や違法配当といった会計事案で処理されることが多くなっているように思います。そこで問題となるのが「実質判断」です。例えば、法律では契約があってそれに見合う役務が提供されたら、これは債権債務の確定だと考えられます。ところが、今は会計で実体判断によって連結の範囲や、売買契約の成立において法形式を無視して会計士に判断責任を問う傾向が過度に強まっていると思います。
平松学長:
  実質判断となると、会計士が重い責任を負うことになります。その判断が法律に抵触する可能性もでてくるでしょう。そうなると今度は会計士も代表訴訟の対象になるということで、えらいことですね。学者でよかった(笑)。
 以前から日本はrule-based の国であり、規則に書いてあることに従って会計処理をして、それを会計士が監査すればよかったのです。ところが、エンロン事件に端を発するSOX法以降はアメリカでもprinciple-based、すなわち原則主義になったのです。原則主義では細かいことは状況に応じて専門家が判断しなさいということになるので、学界でもかなり議論がなされています。細部は専門家のジャッジメントであるといういき方はある意味で正しいと思いますが、その後に来るものは非常に怖いのです。特に法律と抵触する部分については、単に「専門家が判断します」で済まずに非常に大きな問題を生み出す可能性があるので、会計士としては責任がものすごく大きくなるなという気がするのです。
佐伯会長:
  そのとおりです。気になるのは、今はいろいろな法律とか要綱案を作るときに、公開草案が出され審議するプロセスがありますが、最近はスピードが早く限られた期限での作業になっているように思えます。
 とにかく内部統制をどうやってうまく我が国の実務に浸透させるか、学者と実務家、士業がどれだけ機能しているかが問われていると思います。
平松学長:
  そうです。これはあまりにも大きな変革なので、大企業など人を持っているところは自前で考えていけるからまだいいのですが、そうでないところに対して、例えば公認会計士協会が啓蒙活動も含めてどのように活動をしていくかが問われます。それは学者も当然同じで、大学での教育も含めて、どのように社会的な貢献をするかが問われるときだと思います。
 特に内部統制を含むところの今回のは、かりに頭でついていけても、お金のかかる変革なので、これをどうスムーズに実務の中に浸透させていくのかについては、専門家集団としての近畿会としての責任を担わされることになると思います。
佐伯会長:
  そのとおりです。そこで個人的に気になりますのが、上場会社を全て一律に同じ取扱いにしてよいのかと言う点です。例えば、ソニーのようなグローバルな一部上場会社とライブドアのような会社では、こういう言い方は失礼だけれども、一軍と二軍のような差があるのです。従業員10,000人を超える企業と、IPOをやったばかりの会社の内部統制は違うはずです。アメリカでもSECの中で大会社と中小会社は区分してSOX法の適用に巾を持たせています。我国でも内部統制の仕組みの導入に際して配慮すべきだと思います。
平松学長:
  それは私も思いますね。例えば以前からある話では、会計基準の中で退職給付の簡便法というのがある。これだってやはり中小企業にとっては大変なことだという配慮があるわけでしょう。今回特に内部統制の仕組みを作って業務を洗い出したりするということは、聞いているだけで気が遠くなるような作業なのです。形式的に分けてしまうのはどうかと思いますが、考えられるやり方としては、東証一部、二部、それからヘラクレスやマザーズのようなところは少しずつ基準が違ってもいいのではないかなと思います。
佐伯会長:
  全く同感です。
平松学長:
  例えばヨーロッパではの会社法指令では、会計基準を大企業と中小企業で分け、中小企業は簡便法でいいよというようになっていました。今は上場会社は国際会計基準に準拠することになってきましたけれども、規模で分けるという配慮がないと成り立たない世界があると思うんですよ。
佐伯会長:
  おっしゃるとおりですね。ヨーロッパでも売上高や総資産、従業員数で制度適用に変化をもたせています。
平松学長:
  そうしないと内部統制の仕組みなどもうまくいかない気がするのですよ。負担に耐えられない企業が出てくると思うんですね。僕は実務を知らないのですが、聞く範囲では、内部統制が大事なことだとわかっていても、そのための資金負担や人的な負担が大変だということですね。そうだとしたら全部の会社がスムーズに実施できないだろうし、そのときはどうするのかなという気がします。
佐伯会長:
  法律はやはり人が実践するわけだから、インフラが十分でなくリソースがないところに一気に制度を一律に持ってくるというのはおかしいのです。例えば、我国でほとんど守られていない商法の決算公告がそうです。
平松学長:
  私はときどき学生に冗談で言ってきたのですが、すべての企業が本気で決算公告を出したら、新聞は大変なことになります。紙は無駄遣いになるし、新聞受けに入らないような新聞になるし、環境を壊すことになるから、これは重要な問題であると。
J-SOXの場合も、今できたところで見直すのは無理だろうけれども、やはり揺り戻しがあると思います。実務の中で適用する中で変化していくと思います。そうでないと、日本経済にとって損失が起こると思うんです。逆にまたその規制の強さが不正行為につながったりする恐れがあるとも思います。今そんなことを言うと非常に失礼だけれども、そういうことはいずれ出てくる可能性があるということを、あらかじめ考えておく必要があると思います。
佐伯会長:
  私はときどき思うんですが、電車に乗っていて、毎回のように車掌さんが携帯電話の電源を切ってくれと言っているのに、ほとんどの乗客は切っていないですね。マナーかルールかの見方はあるでしょうが、ルール違反がまかり通っている。本気でルールを定着させるには、そのアプローチとして、携帯電話で話しているとペースメーカーをつけている人に障害があるならば、その必要性を乗客に理解してもらえる情報開示が必要で、もし何かあった場合にはそれを処罰していかないとルールは定着しません。
 今回の内部統制の制度を我国に定着させるには、我国の実態に合ったアプローチを取る必要があると思います。
平松学長:
  できないことでもしなければならないことはありますが、このたびは本当に実態を伴って実効性のあるものを作る必要があります。これだけのコストと人的資源を投入してやって失敗したら大変ですから、これは非常に大事なことだと思います。おっしゃったとおり、組織としてきちっとこれを監視するというか見守らなければならないし、学者は特にそれを検証する学問的な作業をしないといけないと思っています。
 
公的分野の情報開示
佐伯会長:
  では次にテーマを変えまして、公的分野の情報開示についてです。
 一つは平成16年台風23号の義援金についてなのですが、平成7年の阪神淡路大震災の義援金が1,800億円集まりましたが、この受入から配分に関して外部の独立した専門家による監査が実施されず、見えていかない部分があるのです。平成16年10月に起こった台風23号の被害に対する義援金は13億円ぐらいだったのですが、会計士協会として監査を申し入れ、我国で初めて監査を実施し、その調査研究報告書を作りました。少なくとも一つの実績を作ったので、今後の大規模自然災害義援金に対する監査に道筋が示せたと思います。
 もう一つは大阪の関市長と太田知事とのトップインタビューの中で、自治体の財務情報の仕組みと情報開示について意見交換させて頂きました。現行の制度として包括外部監査が入っているのですが、あれはバリューフォーマネーというか、3E、いわゆる経済的に効率的に有効的に税金を使っていますかという会計検査のようなものであって、財務諸表監査ではないのです。
平松学長:
  監査は当然必要だと思いますけれどもね。
佐伯会長:
  東京都では平成18年度から複式簿記を入れた決算書ができるようですが、大阪市も大阪府も財政破綻した状態で、引当金も設けて、減価償却なり、金利も入れて、発生主義で実質債務超過はどうなのかを見ていかなければいけません。確かに自治体の財産の中には売るに売れない、お金に変えられない部分もありますが、複式簿記を入れ民間企業に置きかえて債務超過ならどの程度なのかを公表し、一般市民にこれだけ困っているよということを理解してもらったうえで、税金の使い道についてここはカットするということを打ち出せば、「しゃあないな、不便だけれどこれは自分で何とかするわ」というふうに理解が進むと思います。公的な分野に関して、まず民間と比較可能な情報を出すことによって理解者を増やしていく必要があります。
 監査についても、今まで我々は一般の企業だけを対象にしていたのですが、例えば同窓会資金であっても自然災害義援金であってもアカウンタビリティは絶対に必要なわけで、これを一生懸命啓発・啓蒙をしているのだけれども、なかなか浸透しません。
平松学長:
  一例を言いますと、日本の学会の場合は会員の学者が監事をやっているのですが、世界ではそれでは通用しません。ですから、私は6年前の2000年に国際学会を主催したとき、公認会計士の監査報告書をつけて会計報告しました。それは当然なのです。学会といえども会員のお金を集めてやっている以上、専門家が監査するのは当たり前なのです。会計学会は会計の専門家がいるかもしれませんが、一般的に学会の監査は専門家でない人がやっているわけです。そんな常識は、世界では通用しないと思います。
 それから、今の台風23号の件ですが、これなどもそうで、当然のことだと思います。昔、私なんかは共同募金などのときに「このお金はこの後どうなるのかな」と思いましたね。募金した人はどう使われたか何も聞かないわけですよ。責めるつもりは全くないのですけれども、監査しているのかなというのは気になるところです。
 このこととの関連で言うと、関学には近畿会にも協力してもらっている災害復興制度研究所があります。今思ったのは、そこは監査のことを特に研究しているわけではないけれども、一般に災害復興のことを研究する中で、義援金の監査の必要性を研究成果や提言の中にぜひ入れてもらったらいいですね。そこには災害にあった地域の代表の方々が来ていますから、そこでそのことを議論した形で一つ提言すれば、今後ありうる災害のときの義援金の問題をどう監査するかということも、経験に基づいて言えるので、大事なことだと思います。
佐伯会長:
  ちょうど阪神淡路大震災のときに、近畿会で提言書を2回出したのです。結果的には日本赤十字社が自然災害義援金に関するガイドラインを作った中に、甚大な災害の場合に監査が必要であると明記しています。
平松学長:
  だんだんとそれが受け入れられるようになってきたということですね。
 今おっしゃったように、大学も、今はもう監査を義務づけられています。1968〜69年の大紛争前には関学でも会計監査はなかったのですよ。私は学生だったのですが、会計学を学んでいましたから、監査を入れるべきであると提言しました。その後すぐ関学は監査を受けるようになりました。それは私が言ったからではないと思いますが、なんだかうれしかったですね。国立大学法人も監査を受けるようになりましたね。
 それから、おっしゃったように自治体の改革は、まずは情報開示から始まるのです。もちろん複式簿記の財務諸表がないというのがそもそも不思議だったわけですが、今は東京都も含めてあちらこちらで作るようになりましたね。ただ、まだ正式な監査はないのでしょう。
 例えば公開会社はあちこちからお金を集めていて責任があるから監査していますが、自治体は税金でしょう。皆さんが出している税金なのに、監査を受けないというのは、信じがたいことですよね。だから、やはり財務内容も含めて公開する、その公開するデータは公認会計士の監査を受けているということが当たり前だと思います。
 ちょっとPR的になるのですが、関学はアカウンティングスクールで自治体の職員の研修をしようと考えています。自治体の会計を監査するのはいいことですが、内部に財務書類をきちんと作成できる人がいないと話にならない。そういうことを理解している人を育てないと、これから根づかないという発想です。
佐伯会長:
  民間には複式簿記の発想があるけれども、自治体・行政の人にそういう話をしてもスム−ズに会計用語自体が通じないのが実態ですね。
平松学長:
  まず技術的な部分で通じないのと、今の意識の面で、予算を消化するという発想ではないということを理解した人が中に育ってこないと、制度ができても魂が入らないことになるでしょう。やはり自治体の会計はこれから非常に大事になりますよ。税金の無駄遣いは許されないのです。
 
アジアとの交流
佐伯会長:
  次に海外、特にアジアとの国際交流について話題を移したいと思います。来年10月にアジア・太平洋の会計士を集めた世界大会(CAPA)を大阪で開催することになっています。近畿会がその実行を任されているのですが、聞くところによると平松学長はかなりのアジア通と伺っていますので、何かアドバイスを頂けますでしょうか。
平松学長:
  文化の違いを認め、互いに尊重することが大事だと思います。それぞれの文化にはやはりその背景があるのだから、最初はやはり不思議なことでも、軽蔑しないで、よく理解しようとしないといけません。これはどこに行ってもあると思います。
 向こうが言わないこともあるのです。例えば深刻だったのは、あるインドネシアの町で大きな塔が建っているので、「あれは何」と聞いたところ、最初には言ってくれなかったのです。後で文献を調べたら、日本人が戦争中に現地の人を虐殺したことを忘れないようにするための記念の塔でした。友人は私に気を遣って言ってくれなかったのです。親しくなったから言うけれどもというので昔の戦争の話をするということはいっぱいあって、ふだんは仲良くするために伏せているけれども心の奥底には昔のことがあるということがインドネシアみたいに親日の国でもあるのです。だから、中国や韓国はもっと大変だと思います。社会的な序列による礼儀作法があったり、お酒の飲み方にも一定の約束事があったりしますし・・。
佐伯会長:
  今後、CAPA大会の関係で訪中・訪韓しますので参考となります。ところで、今年の1月ですが、友好関係を結んだ上海会計士協会の周会長が近畿会との意見交換を目的に来阪されました。この時、神戸の夜景が見たいということで私の自宅に招待しましたら、形式的な雰囲気が一気に砕けて人間関係が生まれたと感じました。思ったのは、やはり靖国の問題はあるけれども、それは一部の話であって、上海で反日デモがあった翌日にそれに対する反対デモがあったとか、上海の高速道路の一部が日本からの資金で建設されていることの背景もあり、日本に対してwin-winの関係を大切にしたいと考える人が上海(中国)に多くいると思います。特に商都である上海は大阪と同じ価値観なり気質をもたれているのではと感じました。
平松学長:
  アジアとの人間関係を築くのは関西が強いのですよ(笑)。実際、学会レベルでは韓国との関係は関西の学者が中心になって築いてきているのです。
佐伯会長:
  それは「関西人気質」でしょうか。関西では、何か冗談を言ったら、その言葉を使ってまたギャグを飛ばしてくれるというか、キャッチボールができる。
平松学長:
  東京に行ったらそのキャッチボールがあまりできないのです。国際関係でもやはりキャッチボールが大切なので、私は国際関係でも関西の人間のほうが向いていると思いますよ。
佐伯会長:
  CAPA大会をするので、各国の会計士協会の会長の履歴を調べたら、特に驚いたのは、韓国の会計士では政治家とか学者などけっこういろいろな人脈を持っているのです。日本の会計士はどっちかといったらクローズな人たちが多いと思います。
平松学長:
  そうですよ。韓国の学会は規模的には日本の学会の半分程度ですが、予算は日本より大きくて、ものすごく自由にいろいろなことができるのです。日本の会計学会は会員数が1,600名で大きいなんて言っています。ところが、外との関係がないから、お金も入ってこない。会費だけでまかなっている。つまり、お金の問題以上に人の交流がないのですよ。クローズドなのです。これで本当に国際的に学会がやっていけるのかと思います。学問は東京ではなく世界と直結したほうがいいわけで、そういう意識は割と関西の学者には多いですよ。
佐伯会長:
  アジアとの人間関係はやはり我々よりも学会のほうが進んでいるので、いろいろ紹介していただきながら、同じ会計・監査に関わっているのだから、つながりを持ちたいですね。
平松学長:
  だいぶ前になるのですが、インドネシア公認会計士協会の副会長の教え子(学者)が数名で日本に来たときに、東京の公認会計士協会本部へお連れしました。そういう意味では、私の勝手な関係の交流ですが、当時から学者との交流もしてもらっていました。
 いま、近畿会で組織的に国際交流を深められているのは大事なことです。文化の違いがあるから誤解も生じるでしょうけれども、そんなことは乗り越えられるはずです。近畿会会長はもとより、会長に限らず、幅広い人的交流から出てくる信頼関係は、将来必ず生きてくると思います。
佐伯会長:
   先日、上海国有企業監事会のメンバーが10人ほど近畿会を訪問され、ガバナンスや会計不正について意見交換をしたのですが非常に議論が白熱して興味深いものでした。海外の人と会ってもきちんとおつきあいできるのが正に国際人であって、同じ学者とか会計士なら同じ言葉を使っているわけだから、最もコミュニケーションできると思いました。
平松学長:
  これは非常に大事なことです。私もいろいろな国の人とつきあいましたが、一度築いた人間関係はものすごく大事にしています。そのことが、自分のためというより、自分を一つの踏み台にして、学会の発展に資することができるからです。これはある意味では愉快な話なのです。信頼関係というのは利害を超えていますから、それを築いていくことがこれからもっともっと大切なことです。
佐伯会長:
  原点はやはり人と人との信頼関係で、行政でも最後はいい人間関係が築ければいい方向に動いてくれますからね。
平松学長:
  そうですね、人の問題ですね。もちろんその人と本当に親しくなって信頼関係ができて、そのうえでしかるべき議論をきっちりとしていくということが大切なのです。
佐伯会長:
  人を知らずに理屈だけで話をしても、やはり裏があるのではないかと思ってしまうから。
平松学長:
  それはやっぱり成果に結びつかないと思うのです。だからこれは大切なのですよ。特に外国の場合は文化の違う人たちだから、そこでできた信頼関係は大切です。
佐伯会長:
  日本人は単一民族だから人は皆同じだと思っているけれども、やはり文化が違う人とつきあおうと思ったら、各々の異なる文化を認めあっていかなければと思います。
平松学長:
  私は韓国のある著名な会計学者と親友になっていると思っています。向こうも思っているはずだけれども、親しくなりはじめたころには、飲んで酔っ払ったときに私に対して「あなたはまだ昔の戦争のことを謝っていない」と言うのです。そういう思いを持っているのは当然です。この問題は非常にデリケートなので・・。
佐伯会長:
  それを乗り越えなければいけない。
平松学長:
  そう、乗り越えないといけない。私としてもちゃんと「日本がしたことは悪い。我々はこれから未来に向けて一緒にやっていこう」と言いました。そうすると彼の方でも過去の話はそれで終わりで、それから一切その話は出ません。
佐伯会長:
  やはり靖国問題もそうですが、リスクはありますが、それを乗り超えることで信頼関係を築くエチケットというか、判断力というか、人間力が必要だと思います。
平松学長:
  そうです。戦争の問題は本当に重いです。アジアではやはりどこに行っても戦争のモニュメントがあるわけですよ。「あれが日本の・・・」と言って。つらいけれど、それを乗り越えないといけない。
佐伯会長:
  常識で考えて、お隣の国、ご近所とおつきあいできないというのは国際的に見ておかしいですよね。
平松学長:
  去年、関学はアメリカのコリン・パウエル前国務長官とマレーシアのマハティール前首相を招いて講演会をしました。今年は中国との関係を中心に講演会などを企画しようと考えています。今は政治的に大変でしょう。我々は政治問題は扱わないけれども、経済・社会の問題を中心に、日中関係を大学として冷静に取り扱おうとしているのです。
 
おわりに
佐伯会長:
  平松学長がやろうとされていることは、バイオもそうだったし、中国もそうだし、近畿会が重点施策にしていることと非常に近いですね。
平松学長:
  関西学院大学はMastery for Service(社会貢献のために実力を身につける)というスクールモットーを大切にしながら、今の時代にそれをどう還元できるかということを考えています。そうすると、やはり一つはバイオです。創立者のウォルター・ラッセル・ランバスは医者だったので本当は医学部が欲しいのですが、資金がなくてちょっとできないので(笑)、生命科学科を設けています。また、人間福祉学部を新設する予定です。建学の精神をどう今の時代に具体化するかということで、創立者ランバスの時代になかったITという技術を使って、日本の大学では唯一、国連とタイアップして、学生をモンゴル、スリランカ、フィリピン、ベトナムなどに派遣しています。そこの国でIT分野で貢献しようとしているのです。学生の力でもかなりのことができますから、それで貢献しようということで、国連と協定を結んでやっているのです。それも、ランバスが持っていた世界市民としての精神を、今の関学の学生がどういう形で具体化するかということです。来年からは難民を学生として受け入れることにしています。まさに大学ができる世界への貢献です。
 そういうことを常に考えていったら、おっしゃるように、知財のことにしても、バイオにしても、それからCSRにしても環境にしても、どんなふうに組織を持っていこうかというのは近畿会とも同じ方向になっていくのでしょう。
佐伯会長:
  本日は4つのテーマ(地域貢献・法制度・公会計・国際交流)について事前打合せ無くぶっつけの座談会でしたので、どんな話になるかと思っていました(笑)。 関学学長と近畿会との接点が掴めないのではと不安がありましたが、盛り沢山のお話しを伺えて楽しかったです。
平松学長:
  意識として、近畿会や、さらには日本公認会計士協会が今の時代にどういう役割を果たしていくのかと考えたときに、やはりバックグラウンドとして日本の経済とか文化があるわけでしょう。大学も同じだと思います。現在の社会状況の中で、大学としてどういう使命を果たすかということは、近畿会としてどういう使命を果たすかということとは多少は違うけれども、目指している方向は同じだと思います。
佐伯会長:
  最初に申し上げましたように、今回はトップインタビューシリーズの最後なんですが、本当によい総括ができて感謝しております。予定していた時間を過ぎてしまいましたが、本当にありがとうございました。