本の紹介

 
「ライブドア監査人の告白」私はなぜ紛飾を止められなかったのか
田中慎一 ダイアモンド社 1,680円
 
 今回より始まったこの企画は、会計士・監査に関連する今話題の本について、内容をご紹介しようと言うものです。「おすすめ本」ではないことにはご留意下さい。むしろ読むことが必要かの判断材料にしていただければと存じます。
 今回の本はライブドアの元監査人が記載したノンフィクションです。ベストセラー、だそうです。単にライブドアに関する興味だけでなく、世間の監査というもの(と言うよりなぜ監査人は粉飾決算を見逃すか)に対する関心が強いと言うことでしょう。
 非常に読みやすいです。回想録ですが基本的に時系列を追って書かれているので、文章の平易さとあいまって、思わず“ブログ”という言葉が頭にうかびました。
 さて内容ですが、事実関係は既に報道機関等で公表された以上の事は殆ど記載されていません。著者はライブドアが自己株売却や架空売上などの主な粉飾を行なった2004年9月期までは同社に関与しておらず、2005年9月期のみ関与したのですから、それ以前の経緯を記載できないのは当然かもしれません。
 ですから、内容の主体は2005年9月期に著者がいかに会社と戦ったか、になります。著者はその1年で、監査人辞任をちらつかせながら、堀江社長や宮内専務との対応を繰り返し、問題の投資事業組合の解散を実現させます。その攻防の状況はある監査責任者の奮闘記として興味深く、また著者の考え方にも共感が持てます。監査上の判断云々ではなく、監査人の厳格な姿勢が無かった事自体が根本の原因であるという考え方は、厳しいが尤もでしょう。
 ただ・・、その姿勢が無かったのは著者の先任会計士とのことで・・、その通りかもしれませんが、あまりにも、自分の姿勢や努力、周囲の評価等のアピールが記載されており、かえって全体としては自己弁護に感じる内容になっているのは残念です。
 著者は徹底して会社と攻防した事を中心に書かれていますが、むしろ悩んで妥協した点についてもっと記載して欲しかったと思います。本書内では触れられていませんが、2004年9月期が粉飾であると言うことは2005年9月期の財務諸表も誤りであると言う事であり、それに適正意見をつけるにあたり悩んで妥協しなかったと言えば嘘でしょう。著者が、そして先輩会計士が悩んで判断を誤った点こそ、後輩に対して他山の石として提供すべき貴重な経験であると思います。
 と、言うことで、私(監査人)はなぜ粉飾を止められなかったのか、ではなく、ある監査人の奮闘記、として読むのであれば興味深い本と思います。