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中央青山監査法人の業務停止について 

松山 治幸

 
 中央青山監査法人がカネボウ粉飾決算事件により、監査体制が不十分であったことをもって2ヶ月の業務停止処分を受けた。この処分に関連することをここにとりまとめたものである。
 
(事実関係)
 平成18年5月10日付をもって、カネボウ粉飾決算事件を原因として、中央青山監査法人の業務停止2ヶ月(平成18年7月1日〜平成18年8月31日)の金融庁による行政処分を受けた。 併せて、監査担当者であつた元代表仕員の2人(徳見清一郎、神田和俊)が登録抹消となり、もう一人の元社員宮村和哉は業務停止1年の処分を受けた。当時逮捕された代表社員佐藤邦昭も時期が遅れたものの登録抹消処分とされている。
 大手監査法人の業務停止は初めてのことで、金融庁もその影響を計りかねているのが実情である。
 業務停止の対象は、法定監査(証券取引法および旧商法特例法に基づく会計監査業務)及び保険業法、信用金庫法などの特別法に基づく会計監査業務も含まれており、その対象企業数は2,300社に上ると言われている。
 クライアントにとっても初めてのことでその対応に苦慮している。一部の企業は監査法人の変更を決定しているものの、多くの企業は検討中ということであり今後の動向が注目される。
 
(この処分をどのように評価するか)
 カネボウ粉飾決算事件は社会に衝撃を与えた。決算のお 目付け役が自ら粉飾決算に加担したということが報じられ たためである。それも、日本を代表する大手監査法人の代表社員という立場の公認会計士であつたことが衝撃を大きくした。
 関係した公認会計士の登録抹消などの処分は当然であろう。粉飾決算を故意に認めた罪は大きい。
 監査法人の処分も実施された。今回の業務停止以前には、2000年6月にヤオハンジャパンの粉飾決算、2005年1月に足利銀行の監査に問題があったとしていずれも戒告処分を受けていたことも影響したのであろう。
 ところで、このような処分について社員を始め関係者が真剣に受け止めているかが大きな課題であろう。咽喉下過ぎればという姿勢に不安は拭い切れない。
 中央青山監査法人は、経済社会に不安を与え、カネボウ株主に損害を与え、公認会計士の信頼性を失墜させた責任は大きい。会計不信を招いたツケは、証券市場にまで暗い影を落としている。
 中央青山監査法人は、今回の事件に関連して信用回復のために徹底した調査と情報公開を通じて真の改革を社会に向けて発信する責務を負っている。そうした中、改革に向けた方向性が公表されているが、具体性に欠けなぜ発生したのかの検証が不十分と思われる。中央青山監査法人自らの信用回復に止まらず、会計不信を払拭する強い気構えが求められる。
 
(日本公認会計士協会に求められる対応)
 協会は常に自主規制団体を標榜してきた。しかし、自主的な改革への姿勢は乏しいと感じられる。身内に甘い対応、大手監査法人同士の馴れ合い、密室主義、説明責任の欠如、情報公開の壁、不祥事の実態の未解明など、自主規制団体を標榜するにふさわしくない事象に包まれている。
 カネボウ事件に限らず、監査不祥事が発生しても協会としての対応が遅くその反応も鈍い。事なかれ主義に侵されている。
 協会役員の選挙制度も定数内連記制というその弊害が周知となっている多数派が占め少数派を排除できる制度さえ改めようとしない。大手監査法人を中心とする仲間内による協会運営では真の改革は進まない。
 不祥事は貴重な材料の提供であり、その実態を徹底して調査研究し情報公開を行う姿勢を確保しておれば、今日ほどの酷い状況は招くことはなかつたのではないか。
 ところで、協会主導による品質管理レビューが実施されている。中央青山監査法人もその対象でありその他大手3法人もその対象である。その結果がどうであったか。他の3法人と比較して中央青山監査法人の評価はどうであったか。この結果が、評価できないものであれば協会主導による品質管理レビューは意味をなさないこととなる。会費を使っての当レビュー制度の成果が問われる。会員に対する的確な情報開示が必要である。
 
(中央青山監査法人の検証)
 同法人は合併を重ねてきたといっても、他の3つの大手監査法人も同じような道を辿ってきた。従って、合併を重ねたというよりは、合併による一体化への気概が乏しかったのではないか。随分以前にあった監査室制度は解消されてきたとはいえ、山一證券、カネボウなど設立当時から持ち込まれた有力企業の監査は、親方・子分という縦割り組織が踏襲されてきた弊害が顕在化したものである。縦割り組織では、自由な空気での独立性を発揮できる状況ではなく、「まあいいだろう」という甘え、前例主義、事なかれ主義、庇いあい、馴れ合いなど組織運営の障害となる悪弊が蔓延していたのであろう。
 平成4年に発覚した店頭市揚のアイペックの粉飾決算事件では、同監査法人は何も学ばなかった。自分たちの正当性を主張するのみで、内部調査も実施されず、関係者の処分もなかった。このような経営環境の中、自ら律する姿勢が削がれた組織が築かれた。
 平成9年11月に衡撃が走つた山一證券の自主廃業。監査担当であつた中央青山監査法人は、巨額簿外債務を何年もの間、発見できなかった。株主から損害賠償請求される訴訟(現在、大阪高裁にて控訴審中)になったが、同監査法人は粉飾決算さえ認めようとしなかった。この山一證券事件からも何も学ばず、自らを正当とする主張を繰り返すばかりである。
 
(粉飾決算は誰の責任か)
 粉飾決算に手を染めるのは決まって経営陣である。従つて、粉飾決算を責められる対象は経営陣に相違ない。会計監査担当の監査法人又は公認会計士が矢面に立ってパッシングを受けるのは少々筋違いではないかと株式会社フィナンシャル代表の木村剛氏らが指摘している。
 そのような主張があるものの、何も監査法人一人が責められているのではない。カネボウ粉飾事件では、帆足元社長ら経営陣が粉飾決算の罪で逮捕、起訴されていることは事実である。経営陣の責任を棚上げしているものでもない。
 監査法人としての職責を果していないことへの責めである。経営陣は何がしかの意図を持って粉飾決算を行う懸念がある。特に株式公開会社のような場合には広く一般投資者が株式を自由に売買できるからこそ、その基礎となる財務情報の正確性を担保するために監査制度が設けられたのである。この制度を担う監査法人が、粉飾に加担したり見逃したりすればそれは監査法人の責任であろう。会計の番人は番人としての職責を果さなければ、責任追及は当然の帰結である。
 
(今後の対応)
1. 協会の情報開示の徹底を実行する。密室では誠実性が発揮されない。
2. 協会の役員選任方法の改善を図る。定数内連記制は一部改正されたものの、まだ温存されている。
3. 中央青山監査法人は、現在行われている内都調査の結果を公表して、事件の原因を明確にさせる。現状の公表内容は、不十分である。
4. 監査不祥事が発覚すれば、協会として迅速かつ的確な対応をとりその内容を速やかに公表する。綱紀審査会の透明性、監査業務審査会運営の公開。
5. 協会が実施している品質管理レビュー制度の内容の透明性確保。
6. 監査人の交代ルールの徹底化。
7. 外部の公認会計士による品質管理(監査調書)レビューの強制化。
 
(中央青山監査法人のカネボウ事件発覚時の対応批判)
  2005年7月16日号の週刊東洋経済にて中央青山監査法人理事長奥山章雄氏が、「カネボウにだまされた、“しょうがない”では終わらせない」と題して自論を明らかにしている。その中で同氏は、「カネボウの粉飾は巧妙まったく見抜けなかった」「カネボウの経営者が意図的かつ綿密に、相手先企業との共謀のうえで粉飾を行っていたと思われることが次々と発見されている」などを主張している。これでは、カネボウ事件の重大性、監査の危機などが伝わって来ない。内部調査委員会を設けたとのことであるが、その結果報告も公表されていないしどの程度進んでいるかさえ不透明である。
 そうした中、2005年9月13日に関与していた公認会計士4人が逮捕された。また同日、中央青山監査法人、逮捕者の自宅、理事長宅に家宅捜査が入った。この当時の新聞報道では、「自覚乏しき決算の番人」「監査法人揺らぐ信頼」「なれ合い体質露呈」「帳簿の番人背信」「カネボウ粉飾子会社連結外し指南」「なれ合い監査5年超」「監査の重責自覚乏しく」「企業との緊張関係欠く」「後絶たぬ会計士癒着」などの見出しが各紙躍った。
 カネボウの粉飾が明らかにされたのが2005年5月、その後中央青山監査法人は一体何をしていたのであろうか。理事長交代は行われたものの、粉飾事件の内部調査と社会への説明責任は果されていない。監査法人の驕りとでもいえよう。そうした体質が、監査法人改革を鈍らせたものと考えさせられる。
 
(カネボウ事件後の公認会計士業界)
 カネボウの株主の株券は流通しなくなった。関係者による買取も実行されているものの相当に低い株価である。カネボウの株主は欠陥商品を購入したようなもので被害者の
代表例である。他に、従業員、取引先が挙げられる。また、この事件は証券市場の信頼性失墜を引き起こし、証券市場に関係する一般投資者らも被害者であり、公認会計士業界も被害者である。
 公認会計士業界は、自主規制団体の名誉にかけて品質管理レビューの強化を行い、上場会社監査事務所の登録制まで飛び出し、公認会計士各自が持つ品格まで押し潰そうとしている姿に公認会計士業界の明日は迷走か。一人一人の公認会計士の誠実性に信頼を置かず、公認会計士のプライドを地に落としている。
 倫理関係研修会場に漂うけだるさはもう目にしたくない。
 
(最後に)
 カネボウ事件により監査法人の業務停止が8月31日付で終える。業務停止が終えようともカネボウ事件は歴史に残る。公認会計士監査の公益性を改めて肝に念じて欲しい。監査は商売ではない。倫理研修の重要性も指摘されているが、公認会計士となり監査業務に携わる者にとって、研修以前の問題である。こうした原稿の作成中でも、上場会社の不正決算は報告されている。

以上

(2006年5月20日投稿:2006年8月20日一部改訂)