特別寄稿

「裁判員裁判制度」について

 

大阪弁護士会  
副会長
桂 充弘

 
1はじめに
 裁判員裁判制度については、一般の市民が裁判官とともに刑事裁判に参加して、被告人の有罪無罪、そして量刑までも決定する制度ということもあり、既に多くの方が関心をもたれていることと思います。しかし、新聞等の報道や弁護士会の広報活動によって一定の知名度は認められるものの、具体的な制度の中身や自分たちにどういう影響があるのかという点については、十分に理解されているとは言い切れない現状なのではないでしょうか。特に、日頃、顧問先など企業の経営者やその従業員と接触される機会の多い公認会計士等の方々にとっては、裁判員裁判制度について質問を受けて困られることも多いのではないでしょうか。
 そこで、本稿では、裁判員として裁判員裁判に参加される従業員の立場、あるいは企業の経営者として従業員が裁判に選ばれた場合の対応等を踏まえて、裁判員裁判制度の概要などについて、簡単ではありますが、ご説明したいと思います。
 
2裁判員裁判とは
(1)何時から始まるのか
 裁判員裁判は、平成21年5月までに始まります。そうすると、既に2年を切っているということになり、文字どおり目前に迫っているのです。
(2)全ての裁判が裁判員裁判なのか
 裁判員裁判は、刑事事件のみが対象となりますが、全ての刑事事件で導入される訳でなく、殺人、強盗致死傷、傷害致死、現住建造物等放火罪、強姦致死傷、危険運転致死傷、身代金目的誘拐、保護責任者遺棄致死等の一定の重大事件に限定されています。
(3)自分が裁判員になる可能性はどのくらいなのか
 裁判員裁判対象の事件は、例えば、平成16年では全国で約3000件あり、大阪に限定してみても、統計上、年間300〜400件程度にはなると予想されています。各裁判員裁判での裁判員の数は原則6名ですが、最終的に裁判員に選任される前段階としてまず裁判員候補者が選ばれます。そして、裁判員候補者は、1事件について50人から100人が選ばれると言われていますので、大阪府下においては、多い場合は、年間約4万人程度が裁判員候補者として裁判所に呼び出されることになるのです。
(4)どういう人がどういう手続きで選ばれるのか
 裁判員に選任されるのは、衆議院議員の選挙権を有する方です。但し、義務教育を終了していない人、禁固以上の刑に処せられた人など欠格事由及び国会議員、裁判官・検事・弁護士など就職禁止事由に該当する人は裁判員にはなれません。
 次に、具体的な選任の手続きですが、選挙人名簿から無作為抽出された有権者を対象に1年間の「裁判員候補者名簿」が作成されますが、その時期は、前年の12月頃です。名簿に記載されると裁判所から通知等が送付されます。そして、裁判員裁判対象事件が実際に起訴され初公判日が決まると、その6週間前頃までに名簿登載者の中から50〜100名程度が無作為に選ばれ、裁判所から「呼出状」が発送されます。そして、呼出状を受取った候補者は、指定期日に裁判所へ出頭しなければなりませんが、実際に裁判員として選任されるのは、6名(補充裁判員最大6名)ということになります。
(5)辞退できないのか
 年齢70歳以上の方、学生、生徒、過去一定期間内に裁判員、裁判候補者だった方、一定のやむを得ない事情のある方などは辞退することが可能です。但し、やむを得ない事情としては、疾病、傷害、同居の家族の介護等で出頭が困難である場合、その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがある場合など、限定的に規定されています。従って、例えば、仕事が単に忙しいといった理由では、裁判員となることを辞退することは出来ない可能性が高いのではないでしょうか。なお、呼出状を送付された裁判員候補者が正当な理由なく裁判所に出頭しない場合には、10万円以下の過料とされます。
(6)裁判員に選任されたら何をするのか
 6名の裁判員は、3名の裁判官とともに刑事事件の審理(公判)に出席した上で、審理終結直後から、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合どんな刑にするのかを評議して決定します。公判期日は、原則として午前・午後を通じて審理が行われ、ほぼ連日開廷されます。多くの事件は2日から1週間程度で終了すると予想されていますが、それでも仕事を休んで出席しなければならない裁判員にとっては相当な負担であると考えられます。
 また、裁判員や補充裁判員となった場合、評議の経過や各々の裁判官や裁判員の意見の内容、その数等職務上知り得た秘密については外部へ漏らしてはいけないという守秘義務が課されることになります。これに違反すると6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられますので注意が必要です。加えて、裁判員及び裁判員候補者は、賄賂を受取ったりすると刑法上の収賄罪にも該当し得るということも忘れないようにして下さい。
 
3裁判員の権利、保護など
(1)報酬についてはどうなっているのか
 裁判員に対しては、旅費、日当、宿泊費が支払われることが法律上規定されています。日当は、裁判員については、一日上限1万円、裁判所に出頭したが、結局裁判員には選任されなかった裁判員候補者については、上限8,000円が支払われます。
(2)トラブルに巻き込まれる心配はないか
 裁判員、補充裁判員、裁判員候補者の氏名、住所その他の個人を特定するに足りる情報は公開してはならないと定められています。また、裁判員の方々の安全を確保するため、裁判員、補充裁判員やその親族に対して、威迫行為をした者を処罰する規定も設けられています。さらに、裁判員、補充裁判員にその職務に関して請託をしてはならないし、当該事件に関して担当の裁判員、補充裁判員に接触すること、及び裁判終了後も裁判員、補充最場人が職務上知り得た秘密を知る目的で接触することも禁止されています。
(3)裁判に出席することで会社を解雇されないか
 裁判員、裁判員候補者の職務を行うために、会社を休まなければならないことがありますが、その場合でも、それを理由に使用者は、解雇その他不利益な取扱いをすることは許されません。実際に解雇等を行っても無効と解釈されることになります。そもそも、使用者は、従業員が、裁判員、裁判員候補者の職務を行うために会社を休むことを拒絶してはいけないことになっています。これに違反した使用者は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
 
4会社の経営者の理解が重要
 裁判員裁判制度では、前述のとおり連日的開廷が原則です。従って、従業員が裁判員に選ばれると必然的にその間会社を休むことになり、会社経営にとっても多くの支障が予想されます。特に、人的資源が乏しい中小企業の場合にはなおさらでしょう。先頃、大阪信用金庫が中小企業を対象に実施した裁判員裁判制度への対応に関する調査結果においても、「負担が大きく、事業活動に支障が出る」という回答が20%にものぼっている他、従業員が裁判員に選任された場合の具体的対応については、「分からない・未定」が55.5%と過半数を占め、「欠勤扱い」と回答した企業も5.3%存在するなど困惑している現場の様子が見受けられます。大阪信金は、中小企業では人的資源が非常に限られており、労働者、経営幹部ともに人材に依存するところが大きいことが負担要因となっているのではないかと分析しています。
 しかし、裁判員としての職務を果たすことは国民の義務であり、その義務を果たす従業員を支援することが、社会的存在である会社・使用者の社会的義務と言えるのではないでしょうか。前述の調査においても、休暇自体を会社負担の「特別休暇扱い」とする企業が16%あり、「有給休暇扱い」が13.5%、「出勤扱い」も9.7%あるなど、実際に、従業員をバックアップする企業も着実に増えてきているのではないでしょうか。中小企業、大企業問わず、経営者の方々には、裁判員となる従業員が安心して職務に専念できるよう特別に有給休暇を付与する制度を導入するなど、今後とも積極的に検討されることを期待します。
 また、前述のとおり、裁判員候補者には、前年12月頃には名簿登載の通知が送付されますし、6週間くらい前には参加する期日の日程も分かります。従って、会社・経営者は、従業員が裁判員に選任された場合を想定して営業活動など予め対策を立てることは十分に可能であると思われます。
 
5最後に
 裁判員裁判は、課題を多く抱えた制度ではありますが、これまでの刑事裁判と異なり、市民が刑事裁判に直接参加する重要な制度です。この制度が成功するかどうかは、それに参加する市民一人一人の理解とともに、その人たちが働く企業の理解、協力も不可欠です。制度実施まで2年を切りましたが、裁判員裁判制度への理解が市民へ一層深く浸透していくために、大阪弁護士会でも、市民、企業への様々な広報活動、「どこにでも派遣します」をモットーに講師派遣等(連絡先 大阪弁護士会委員会担当室 06-6364-1227)に積極的に取組んでおりますが、読者の皆様方におかれましても、これを機に一層関心を持たれることを願っております。