報告

第233回 企業財務研究会報告

監査会計委員会

平成20年4月4日(金)午前10時より12時まで、近畿財務局会議室において第233回企業財務研究会が開催された。
出席者
近畿財務局 原田理財部次長  他9名
近 畿 会  遠藤副会長  他4名
兵 庫 会 中津会長  他3名
京 滋 会 長谷川会長  他6名
テーマ 「不適切な会計処理に関する訂正報告書の事例分析」
発表者    
深井和巳 副会長
水野訓康 監査・会計委員長
田中正志、岩淵貴史、川崎覚史、 今井康好 監査・会計副委員長
 
T.テーマ選定の背景
  粉飾決算が社会問題となり、会計情報の正確性についての要求も一層高いものになってきている中、企業の不適切な会計処理等が判明したことに伴う、過年度の財務諸表等の修正にかかる訂正報告書が平成18年から増加している。
  従来は過年度損益については前期損益修正として特別損益処理されるのが一般的であったが、監査厳格化や内部通報制度等の内部統制の整備の中で、過年度の決算に疑義が生じるケースが増加しており、一方で、会計基準の国際的なコンバージェンス促進の影響を受け始めたことから、過年度遡及修正が行われるようになってきたと考えられる。
  現行制度においても、財務諸表に重要な影響を及ぼすような誤謬が発見された場合で、訂正報告書の訂正事由に該当するときは修正再表示が行われることになるのであるが、明確な基準がないことから、過年度遡及修正の基準作成に向けて、企業会計基準委員会の「過年度遡及修正専門委員会」で審議も進んでいる。 このような背景を受け、不適切な会計処理に伴う訂正報告書の事例について詳細な分析を行うこととした。
 
U.不適切な会計処理に関する訂正報告書の開示状況
 1.調査方法
 平成17年1月1日から平成19年12月31日の間に提出された有価証券報告書の訂正報告書を対象として、「JICPA Database」の「有価証券報告書検索システム(eSPERサーチ)」にて、キーワード「不適切」により検索を行った。
 
2.分析結果
(1)提出日別の状況
  調査対象期間において合計29件の事例があったが、提出年別にみると、平成17年2件、平成18年12件、平成19年15件と、件数は増加する傾向にある。これは、いわゆる粉飾決算の社会問題化に伴い、不適切な会計処理に対する利害関係者の意識の高まりを発端として、以下の理由が考えられるのではないか。
@  コンプライアンス意識の高まりや企業とそこで働く人々との関係についての意識の変化等により、企業内部から不正経理についての指摘が行われるケースが増加してきた。
A 社会的要請より、監査人の監査上の対応においてより厳格な取扱いがなされるようになってきた。
 
(2)訂正報告書の提出に至った不適切な処理の分類
  売上にかかるものとたな卸資産(売上原価)にかかるものが大半を占めた。これらの項目は、決算に大きな影響を及ぼし、かつ、不適切な会計処理がされていたとしても取引量が多いこと等から判明が遅れる可能性が高い項目と思われる。また、判明の遅れが、訂正金額の多額化を引き起こす要因にもなるものと予想される。公認会計士における財務諸表監査においてもこれらの項目について特に重点を置くことが必要である。
 
(3)訂正による影響の状況
  修正による利益剰余金に及ぼす影響額は、比較的僅少なものからカネボウ梶i平成15年3月期で利益剰余金が217,968百万円減少)のように多額なものまで様々であることが見て取れ、最終損益に及ぼす影響額が比較的僅少であっても訂正報告書が提出されていることがわかる。 複数年度にわたり修正されている場合で、修正の最終年度の利益剰余金には影響が無い場合も数件把握された(エス・バイ・エル梶A酒井重工業梶A蝶理梶A鰍sTGホールディングス)。直近決算の純資産が正しく表示されていたとしても、当期と過年度、または過年度間の損益が入り繰っている場合に、訂正報告書による訂正が行われている。
 
(4)訂正期間の状況
 訂正報告書による訂正対象となる会計期間は複数年であることが多く、基本的には不適切な処理が財務諸表に及ぼす期間にまでさかのぼって財務諸表が修正され、訂正報告書での訂正対象とされていると推測される。 抽出されたサンプルの訂正期間は最長5年であった。これは、有価証券報告書における「主要な経営指標等の推移」の記載は5年分であることによるのではないかと考える。
 
(5)監査報告書の添付状況
  監査報告書が添付されている割合が多いものの、一部に添付されていないケースもあった(蝶理梶A潟Wクト、潟qマラヤ及びエス・バイ・エル鰍フ4件)。監査報告書が添付されていないケースにおいて、添付されていない理由は訂正報告書において明確な記載は見られなかったが、監査報告書が添付されなかった背景は、訂正内容に重要性がない、あるいは訂正後の財務諸表について監査を実施することが困難であったことが理由ではないかと思われる。
 
(6)監査人別の状況
   訂正対象となった有価証券報告書に含まれる(連結)財務諸表の監査人は大手監査法人から中小監査法人まで幅広くなっている。
 
(7)訂正報告書に添付される監査報告書の意見
  意見不表明の2件(カネボウ葛yび潟ニコ・コーポレーション)を除いて除外事項の無い適正意見であった。不適切な会計処理を修正する場合、そのような会社は内部統制が不十分である場合が多く、また、過年度までさかのぼって調査する必要があり、資料などの裏づけも十分でないこともあるものと思われる。このような場合に、監査人が監査意見表明のための合理的な基礎を得ることができず、意見を表明しないケースが生じるものと考える。
 
V.個別分析
  抽出された訂正報告書のうち、4社(酒井重工業梶A鞄兼カーライフグループ、井関農機梶A渇チト吉)について、個別分析を実施した。抽出にあたっては訂正理由と監査人が分散するように選定した。 個別分析に当たっては、訂正報告書の他、取引所の適時開示情報、改善報告書、臨時報告書及び会社法に基づく(連結)計算書類を主に参照し、次のような項目について詳細な分析を実施した。
訂正報告書の提出状況(有価証券報告書及び半期報告書に限る)
有価証券報告書の訂正報告書の提出理由
経過
不適切な処理の影響
具体的な修正項目と不適切な処理とされた内容
不適切な取引が行われた背景
過年度修正分についての有価証券報告書の取扱いと会社法計算書類の取扱いの比較
 特徴的な訂正箇所
監査報告書
不適切な会計処理の類型
 
W.提  言
 
不適切な会計処理に関する訂正報告書の事例分析を行った結果、以下について提言したい。
 
1.具体的な修正項目と不適切とされた内容についての記載の充実
 訂正の理由については、訂正報告書の「有価証券報告書の訂正報告書の提出理由」に記載することとされている。事例分析をした結果、当該記載の充実度合いにかなりのばらつきが見られる。特に、(連結)財務諸表の訂正に至るような状況については、投資家の関心も高く、具体的な修正項目と不適切とされた内容についての記載を充実させることが、訂正報告書の情報を利用する利害関係者にとっても有益であると考える。
  具体的には、以下の記載が行われることが適当と考える。
 
@訂正前後のB/S及びP/Lの比較表
 P/Lについては比較表を記載している会社があるが、記載が無い会社も多く、その場合は、訂正による影響を分析するために訂正前後の(連結)財務諸表を自ら比較分析する必要があり、B/Sの比較表も含めて当初から記載されていれば利害関係者は訂正の影響を容易に把握できるものと考える。
 
A訂正箇所と訂正の原因となった事象(不適切な取引)との関係の説明
  訂正報告書からは、結果として訂正された項目と金額を個々に把握することはできるが、訂正の原因となった事象と訂正された項目及び金額との関係を把握することは訂正報告書を相当分析すれば一部には分かる部分もあるが、不適切な会計処理の原因となった事象の概略やその背景については、別途後日に開示される改善報告書等を閲覧しない限り理解することは困難である。
 訂正報告書においても、訂正の原因となった事象と訂正された項目及び金額との関係を説明することが望まれる。また、不適切な会計処理の原因となった事象の概略についても、必要に応じて図表等を用いて記載することが、利害関係者の判断に資するものと考えられる。
 
B(連結)財務諸表における注記の記載
 訂正後の(連結)財務諸表において、訂正の理由となった事項に関連する箇所について、訂正の状況を積極的に開示されることが望ましい。
 
C今後の対応の記載   
  不適切な取引を生じさせるに至った問題点及び今後の対応(内部統制上の問題点に対する対応)について開示することが利害関係者の判断に資するものと考える。
 
2.訂正報告書に添付される監査報告書の取扱いについての記載
 事例分析をした結果、(連結)財務諸表が訂正されているにもかかわらず、訂正報告書に監査報告書の添付がなされていないケースがあるものの、監査報告書が添付されない理由の記載が見られなかった。(連結)財務諸表を訂正する訂正報告書において監査報告書を添付しない場合は、添付しない理由を開示することが利害関係者の判断に資するものと考える。

以上の発表の後、いくつかの質疑応答と意見交換がなされ、定刻となったので終了となった。
  次回は、兵庫会の発表当番であり、平成20年9月9日(火)開催と決定された。  

以上

        (文責:京滋会監査・会計委員長 水野訓康)