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リレー随筆 第5回

 おこがましくも 「会計士」と呼ばれながら、 会社員が考えていること

清水敬輔

 「日本公認会計士協会一号準会員」という肩書を、私は会社の名刺に刷り込んでいます。長たらしい肩書ですが、初対面の方と雑談の種になるので重宝しています。
 「一号」準会員とは、協会が最近新設した準会員の登録制度です。正会員登録する資格はあるが「公認会計士」を名乗る必要のない人が、準会員として登録するものです。ちなみに、会計士補が「二号」、新試験合格者が「四号」です。
  私は大学を卒業して直ぐに、現在も勤務する関西電力株式会社に就職しました。企画部門に配属され、経営計画等に携わったのをきっかけに、簿記の勉強を始めました。会計士試験の受験勉強へも、その延長で割と気楽に雪崩れ込みました。不合格を繰り返すうち、えらいものに手を出してしまったことに気付き、随分後悔しましたが、家族にも職場にも引っ込みがつかなくなり意地になって勉強を続けた結果、どうにか2次試験に合格できました。その後実務補習所に通い、また、ご縁のあった監査法人で業務補助を経験させていただき、今に至っています。
  今後も、身辺に急激な変化がない限り、今の会社で働き続けたいと思っています。会社員であり続ける身に会計士資格は必須ではありませんが、資格を取って良かったことも勿論あります。大まかに言うと、主に2点でしょうか。
  まず、社外の人脈がいっぺんに広がりました。業務補助でお世話になった監査法人の先生方、実務補習所の同期を始めとして、多くの人達と巡り会えたこと。これは、かけがえのない財産です。
  もう一つは、会社の中でも変に有名になることです。「公認会計士」のネームバリューは偉いもので、殆ど話をしたことのない人から、「清水さん、会計士らしいですね」と言われてびっくりすることもしばしばです。
  しかし、これはこれでプレッシャーでもあります。「会計士」と言えば、当然「決算のプロ、監査のプロ」という目で見られます。実は、入社以来、私がメインでやって来た仕事は、決算業務ではありません。企画部門でも、その後異動した経理部門でも、会社の財務計画・予算統制みたいな仕事をずっとしてきたのです。
  言うまでもなく「受験勉強の知識」と「決算実務の能力」は別物です。弊社にも決算実務を長年担当しているプロが大勢いますが、そういう人達にさえ「会計士」という目で見られると、むしろ気恥ずかしさを感じます。
  第一、「受験勉強の知識」自体が、実務補習所の修了試験を最後に、急速に頭から抜け落ちていっています。忘却していく知識をせめて補うために、CPEの講座・講演会にできる限り出席したり(準会員なので義務ではありません)、会計・監査ジャーナルに何となく目を通したり、補習所の同期達と定期的に飲みに行って最近の監査業界の問題意識に耳を澄ますようなこともしています。しかし、日々の監査で実務経験を蓄積していく同期達にはかなうべくもありません。(先日、私の職場へ監査法人が往査に入られ、私も経理部門の一責任者として3日間随行しました。これが初めての監査対応でしたが、大変新鮮な体験でした。)
  一方で、会社員稼業の中で重ねた私のキャリアについて、自負するところが無いわけでもありません。
  私は、将来の利益を予想して今打たねばならない対策を計画したり、限りある経営資源を最もバランスよく配分できるように各部門と予算折衝をしたり、「計画」と「調整」の仕事ばかりをしてきました。この手の仕事は「正解」がなく、人と人との話し合いの中で物事が決まっていきます。予算交渉の駆け引き、社内縦横の根回し、自分の案を説得的に通すためのストーリーの組み立て、部下・他部門等に機嫌よく働いてもらうための人間関係の調整、等々、どれも知識・理屈の世界とは縁遠い、人間感情に根差した泥臭い部分ですが、これらは自分の行動特性として染み着いているように思います。
  企業活動をサッカーのフィールドにたとえるなら、会社はプレイヤー、公認会計士は審判あるいはコーチ、解説者の立場に当てはまるでしょうか。私はこれからもプレイヤーとして、フィールドを走り、ボールを蹴っていたいと思います。ただ、審判やコーチとしての理論を学んだ経験、その過程で得た人脈は、プレイヤーとして活躍するためにも大いに役立つと信じています。
  公認会計士試験の合格者は近年大幅に増加しており、受験者側の価値観も多様化しています。今後は、必ずしも「試験合格=監査法人入所」でもなくなって、私のような人間が増えていくのかも知れません。現に私の身近なところでも、在学中に合格した人が新卒で弊社へ入社してきたりしています。私自身そうした新しい会計士層の一人として、同じ道を選択する若者達の参考になれるようなビジネスマンを目指し、腕を磨いていきたいと思っています。