特集
特別寄稿

四半期レビューの論理

香川大学経済学部教授  井上善弘

Tはじめに
  平成18年6月に成立した金融商品取引法では、平成20年4月1日以後開始する事業年度から、上場会社等を対象にして四半期報告書の提出を義務づけており、四半期報告書に記載される四半期財務諸表については、公認会計士又は監査法人の監査証明が求められている。この公認会計士又は監査法人による四半期財務諸表に対する監査証明については、企業会計審議会はそれをレビュー方式により行うこととし、平成19年3月27日に『四半期レビュー基準の設定に関する意見書』を公表した。また、日本公認会計士協会は、これを受けて、平成19年10月30日に監査・保証実務委員会報告第83号『四半期レビューに関する実務指針』を公表した。金融商品取引法の下で公認会計士又は監査法人により行われる四半期レビューは、これらの基準及び実務指針に従って行われることとなる。
  本稿は、『四半期レビュー基準の設定に関する意見書』(『四半期レビュー基準』を含む)及び『四半期レビューに関する実務指針』の内容を検討することにより、金融商品取引法の下で行われる四半期レビューの特徴と、そこから生じる課題について論じるものである。特に、本稿は、四半期レビューの特徴の中でも、四半期レビューに求められる保証水準を確保するための論理と、そこから生じる課題に焦点を合わせ論じる。
 
U四半期レビューの目的
   四半期レビューの目的は、四半期財務諸表の適正性に関する消極的形式による結論の表明にある。すなわち、四半期レビューの目的は、「経営者の作成した四半期財務諸表について、一般に公正妥当と認められる四半期財務諸表の作成基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかったかどうかに関し、監査人が自ら入手した証拠に基づいて判断した結果を結論として表明すること」(『四半期レビュー基準』第一)にある。
   また、四半期レビューの目的は、年度の財務諸表の監査の目的や保証水準と対比される仕方でも説明されている。すなわち、四半期レビューは、「四半期財務諸表が一般に公正妥当と認められる四半期財務諸表の作成基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意見を表明するものではなく」(『四半期レビューに関する実務指針』U)、また、「財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないということについて合理的な保証を得るために実施される年度の財務諸表の監査と同様の保証を得ることを目的とするものではない」(『四半期レビュー基準の設定に関する意見書』二・1)とされる。
 
V四半期レビューの保証水準
  上記の四半期レビューの目的に関する説明から明らかなように、四半期レビューの実施により得られる保証の水準は、年度の財務諸表の監査の実施により得られる保証の水準より低い。それは、四半期レビューにおいて実施される手続が「質問、分析的手続その他の四半期レビュー手続に限定されており、年度の財務諸表の監査で要求される証拠のすべてを入手する手続は求められていない」(『四半期レビューに関する実務指針』U)ためである。すなわち、四半期レビューにおいては、「通常、内部統制の運用評価手続や実査、立会、確認、証憑突合、質問に対する回答についての証拠の入手及びその他の実証手続に基づく証拠の入手は要求されていない」(『四半期レビューに関する実務指針』U)のである。そして、それゆえ、四半期レビューは、「重要な事項がもしあれば、監査人に気付かせるものであるが、年度の財務諸表の監査であれば可能であったであろうすべての重要な事項を発見することを保証するものではない」(『四半期レビューに関する実務指針』U)ということになる。
   それでは、四半期レビューに求められる保証水準が年度の財務諸表の監査に求められるそれより低いとしても、四半期レビューに求められる最低限の保証水準とはいかなる水準を指すのか。それは、『四半期レビュー基準』等において、必ずしも明確に説明ないし規定されているわけではない。例えば、監査人は「四半期財務諸表に係る投資家の判断を損なうような重要な虚偽の表示を看過することなく」(『四半期レビューに関する実務指針』X・1)四半期レビューを実施することが求められ、四半期レビュー報告書における監査人の結論は「四半期財務諸表に重要な虚偽の表示があるときに不適切な結論を表明するリスクを適度な水準に抑えるために必要な手続を実施して表明されるもの」(『四半期レビュー基準に関する実務指針』U)というように、抽象的な表現で説明されているだけである。
 
W四半期レビューと年度の財務諸表の監査との関係
   四半期レビューは、年度の財務諸表の監査人と同一の監査人により、年度の財務諸表の監査を前提として実施される。『四半期レビュー基準』等で四半期レビューの実施主体を「監査人」と称しているのはそのためである。四半期レビューが年度の財務諸表の監査を実施する監査人により、年度の財務諸表の監査を前提として実施されることにより、四半期レビューの実施主体である監査人には、「年度の財務諸表の監査において得た、内部統制を含む、企業及び企業環境の理解及びそれに基づく重要な虚偽表示のリスクの評価を考慮して、四半期レビュー計画の策定を行い、これに基づき、質問、分析的手続その他の四半期レビュー手続を適切に実施することが求められる」(『四半期レビュー基準の設定に関する意見書』二・2)こととなる。
   もちろん、四半期レビュー計画の策定において監査人が考慮すべき事項は、年度の財務諸表の監査の結果得られた理解や評価ばかりではない。監査人は、四半期レビューにおいて、「四半期における内部統制の変更の有無、企業の属する業界及び企業の事業の現状と今後の動向に関する事項を、質問等によって理解する」(『四半期レビューに関する実務指針』X・3・(1))こととなる。また、監査人は、四半期レビュー計画の策定に当たり、四半期財務諸表の作成に係る内部統制についても十分に理解しなければならない。それは、四半期財務諸表の作成に係る内部統制が「例えば、四半期特有の会計処理に係る内部統制等、年度財務諸表の作成に関係する内部統制とは異なる可能性がある」(『四半期レビューに関する実務指針』X・3・(2))ためである。  
 
X四半期レビューにおける保証水準の確保の論理

  先に述べたように、四半期レビューで実施される手続は、質問、分析的手続等の手続に限定されており、四半期レビューでは、年度の財務諸表の監査で実施される内部統制の運用評価手続、実査、立会、確認、その他の実証手続は実施されない。『四半期レビュー基準』は、質問や分析的手続等の四半期レビュー手続を実施した結果として、レビューの実施対象である四半期財務諸表について、企業の財政状態等を重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高いと認められる場合には、監査人は「追加的な質問や関係書類の閲覧等の追加的な手続を実施して当該事項の有無を確かめ、その事項の結論への影響を検討しなければならない」(『四半期レビュー基準』第二・7)と規定している。しかし、そのような場合でも、四半期レビューにおいては、監査人は、財政状態等を重要な点において適正に表示していない事項の有無を確認するために、追加的な手続として実証手続を実施することまで求められていないと考えられる。
    四半期レビューで実施される手続がこのように限定されているにもかかわらず、四半期レビューが求められる保証水準を確保できるのは、四半期レビューが年度の財務諸表の監査人と同一の監査人により、年度の財務諸表の監査を前提として実施されるためである。例えば、第1四半期の四半期レビューについて、監査人は、前年度末に係る年度の財務諸表の監査で得られた内部統制を含む、企業及び企業環境の理解及びそれに基づく重要な虚偽表示のリスクの評価を考慮して、四半期レビュー計画の策定を行う。これらの理解やリスク評価を前提としなければ、監査人は質問や分析的手続の対象とすべき事項を決定することすら覚束無い。第2四半期以降の四半期レビューについても、当年度の財務諸表の監査で実施された重要な虚偽表示のリスクに関する評価の結果等が、四半期レビュー計画に反映されていくことになる。『四半期レビュー基準』が、「年度の財務諸表の監査を実施する過程において、四半期レビュー計画の前提とした重要な虚偽表示のリスクの評価を変更した場合や特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、その変更等が四半期レビュー計画に与える影響を検討し、必要であれば適切な修正をしなければならない」(『四半期レビュー基準』第二・2)と規定しているのは、このあたりの事情を物語っているものと考えられる。
   それでは、質問や分析的手続等の四半期レビュー手続を実施した結果として、レビューの実施対象である四半期財務諸表について、企業の財政状態等を重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高いと認められる場合、四半期レビューに求められる保証水準を確保するために、監査人にどのような手続の実施が求められていると解釈すべきであろうか。先ほども述べたように、『四半期レビュー基準』は、この場合、監査人は「追加的な質問や関係書類の閲覧等の追加的な手続を実施して当該事項の有無を確かめ、その事項の結論への影響を検討しなければならない」と規定している(『四半期レビュー基準』第二・7)。しかし、監査人には、当該事項の有無を確かめるための追加的な手続として、実証手続を実施することまでは求められていないはずである。そもそも、制度上、四半期レビューで実施される手続に実証手続は含まれないと想定されているからである。
   そうすると、質問や分析的手続等の限られたレビュー手続では、四半期レビューにおいて、不適切な結論を表明するリスクを適度な水準に抑え、四半期レビューに求められる保証水準を確保することが困難となる場合が生ずると予想される。したがって、『四半期レビュー基準』等では必ずしも明示されていないが、追加的な四半期レビュー手続を実施してもなお財政状態等を重要な点において適正に表示していない事項の有無について十分な証拠が得られない場合には、年度監査人としての立場で、年度の財務諸表の監査における監査手続として実証手続を実施することも想定されていると考えられる。

 
Yむすび

   本来、保証業務を実施したことにより業務実施者が保証対象に関して得る保証の水準、それゆえ保証対象に対して付与する保証の水準と、業務実施者が当該保証業務に関して想定利用者に対して負う責任との間には相関関係があるはずである。すなわち、保証対象に関して得る保証の水準が高ければ高いほど、業務実施者が当該保証業務に関して想定利用者に対して負う責任もそれだけ重くなり、また、その逆の関係も成り立つ。したがって、四半期レビューの保証水準と年度の財務諸表の監査のそれとの差は、両者の間での想定利用者である投資者に対して負う監査人の責任の程度の差につながる。
   ところが、四半期レビューが年度の財務諸表の監査人と同一の監査人により、年度の財務諸表の監査を前提として実施されることで、四半期レビューに係る監査人の責任の程度や範囲が、年度の財務諸表の監査に係る監査人の責任との間の関係から、曖昧なものとなる危険性がある。仮に、四半期財務諸表について、企業の財政状態等を重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高いと認められ、当該事項の有無を確かめるための追加的な手続として、追加的な質問や関係書類の閲覧等の四半期レビュー手続を実施したとする。この場合、先ほども述べたように、そういった追加的な四半期レビュー手続を実施してもなお当該事項の有無について十分な証拠が得られないときには、年度監査人としての立場で、年度の財務諸表の監査における監査手続として実証手続を実施することが想定されている。四半期財務諸表に係る投資家の判断を損なうような重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、四半期レビューの実施主体であると同時に年度の財務諸表の監査の実施主体でもある監査人が、年度監査人としての立場で、年度の財務諸表の監査における監査手続として実証手続を実施することを期待されているのである。
   しかしながら、先に引用したように、四半期レビューは、あくまでも、「財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないということについて合理的な保証を得るために実施される年度の財務諸表の監査と同様の保証を得ることを目的とするものではない」(『四半期レビュー基準の設定に関する意見書』二・1)のである。また、制度上、四半期レビューの実施期間が極めて短期間であることを鑑みれば、追加的な手続として監査人が実施することのできる四半期レビュー手続や実証手続にはおのずと限界があると考えられる。したがって、四半期レビューが年度の財務諸表の監査人により、年度の財務諸表の監査を前提として実施されたとしても、四半期レビューに係る監査人の責任は、四半期レビューに求められる保証の水準に相応するものでなければならない。つまり、実証手続を実施することで、四半期レビューの保証水準が本来求められる水準を超えて年度の財務諸表の監査のそれに近づくことが期待されるとしても、四半期レビューに係る監査人の責任は、四半期レビューに求められる保証の水準に相応するものでなければならず、それを超えるものとなってはならないと考えられる。

 
■略 歴
1964年生まれ。 1991年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。 1992年香川大学商業短期大学部助手、1994年同講師、1996年香川大学経済学部助教授、2004年同教授、現在に至る。 2001年度日本監査研究学会監査研究奨励賞受賞。 主要論文「監査判断研究のパラダイム」『現代監査』No.11、2001年、 「日本的内部統制監査の特質」『現代監査』No.17、2007年。