特集

「監査法人事務所長へのインタビュー」

 

監査法人トーマツ
関西ブロック本部長兼大阪事務所長

東  誠一郎氏氏

日本公認会計士協会会計士補会近畿分会

 
インタビュー趣旨
 現在、日本公認会計士協会近畿会では3,445人もの準会員が所属しています。(平成20年8月末現在)これだけ若手が多くなってしまうと、トップの想いを若手が知る機会は少なくなってしまうのではないでしょうか?
 今回、「監査法人のトップにご意見を伺い、若手、特に準会員のモチベーションアップを図る」ことを目的とし、各監査法人の所長にインタビューを敢行して参りました。各監査法人のトップの現在の監査現場、人事制度、そして会計士業界の将来に対する熱い想いを語って頂きました。
 なお、本インタビューは、原則として過去2年間5名以上の新入職員を採用された監査法人を対象としております。       

(会計士補会 近畿分会)

 
●士補会  東さんが会計士になられた動機を教えてください。
●東  元々、普通にサラリーマンになるつもりはなく、高校生まで法学部に入って司法試験を受けたいなと思っていました。
ただ、諸般の事情から親父に法学部よりは経済とか経営に入れと言われました。その結果として、司法試験の代わりに会計士試験を受けた格好になりましたが。
●士補会  そうなんですね。当初は考えていなかったんですね。では、次に略歴についてですが、アメリカ
に行かれたんですか?
●東  そうです、アメリカのアトランタに5年間行きました。これは私のキャリアにとっては大きな節目でして、今にして思えば、その辺りから人生のコースが変わり出したと思います。さらに言うと、アメリカへ行っていなかったら、たぶんトーマツを辞めていましたね。
●士補会  あ、そうなんですか。
  ●東 今だから言えますが、最初の10年間で3回ぐらい、法人を辞めようと思いました。3回目が自分の中で一番きつく、もうとにかく辞めたい、辞めたい、早く辞めたい、と言う気持ちで。ぶっちゃけて言うと、よその法人の代表社員の先生に相談していました。その頃の私には、ちょうど今の若い人が感じている閉塞感があったんですね。
ちょうど、その時期に一緒に働いていたパートナーから、アメリカの駐在員の後任で行かないか、という話がきたんです。結果的にアメリカへの赴任自体は1年延びたのですが、この話をもらって、少なくとも環境がガラっと変わるし、自分自身のやることも変わるから、ああ、もうちょっといてもいいかなと思い留まったという意味で海外駐在の経験は大きかったです。また、仕事の上では、当時、アメリカ各地に駐在していた先輩や同僚にはものすごく世話になったし、クライアントや日本人コミュニティも含めて人のつながりができたので、その後のトーマツのキャリアの中で、すごく影響しているなと思います。
●士補会  では次に事務所の展望ですが、いい方向に向かっていると思われますか?
●東  今年度でいうと、内部統制監査制度と四半期レビュー制度が始まりました。と言っても何年も前からわかっていたことで、特に内部統制監査の支援については、早くから監査クライアントや非監査クライアントにも支援してきました。そのしわ寄せが通常の監査業務に負荷としてかかっていたと思うのです。ここ1、2年、仕事の絶対量に対して人が全然足りず、特にマネジャーやシニアの人には、ものすごく負荷がかかっていたと思います。それが少なくとも人員の面で言うと、去年8月に旧「みすず大阪事務所」から180人移ってこられたのと、去年のリクルートで、トーマツ関西ブロック全体で200名の新人を採用したので、頭数という意味では、仕事と人のアンマッチは総量対総量で言うと解消されました。
ただJ1の方々には、きつい言い方だけれど、まだ一人前の戦力にはなっていないから、彼らが少なくともJ3とかJ4とか、もっと先のシニアになるまであと何年かは我慢が続くと思うのです。
   
●士補会  そうですね。確かに今のJ1がシニアになれば、すごい戦力になりますね。
では、次に人が増えるにあたり、風通しのいい、コミュニケーションが活発な風土を作るためにはどうすればいいとお考えですか?
●東  事務所として気を付けなければいけないのは、横の同じような年次の人同士のコミュニケーションと、組織としての上下のコミュニケーションと二方向あって、風通しの良し悪しは、上下間のことだということです。ここが悪くなると、組織として様々な弊害が出てきます。そこで、大阪事務所の監査部門職員に対して、二人の若手パートナーが中心になって、「職員の声を聞く会」と称して、一昨年の冬から去年の春先までかけてカウンセリングを実施し、職員の声を聞いた内容と、毎年やっている人事の自己申告制度の情報を集めて、さらにこれにデロイトグループ全体で実施したアンケートによる意識調査の結果を踏まえて、大阪事務所としてどう対応するか検討し、いったん7月の全体集会で説明しました。今、法人経営で一番大事なことは、人事管理、職場の環境改善だと思います。これをやらないと、組織として非常に疲弊すると思います。みんなの顔が青ざめて、疲労感いっぱいで、目の前の仕事をただやっつけるだけの組織になってしまうと思うのです。
そうしたら、冒頭に言った、私が10年間に3回辞めようかと考えたのと同じような気分にもなってしまうと思うのです。もういつ辞めよう、いつ辞めようということばかりで・・・。
●士補会  その閉塞感を打破しようということで、人事管理、職場の環境改善をされているのですか?
●東  そうです。まずは人の量と仕事の量の適正なバランスをとることが必要だと思うのです。負荷は年々増えるばかりでしょ。チェックリストは増え、監査調書の登録だって前よりも厳しくなっている。短期間にしなければいけないことが増え、削るという作業をあまりやっていなかった。これではいけないと言うことで、去年からオールトーマツで効率化のノウハウの共有を図っているところです。
●士補会  では、人事管理、職場の環境改善の中で給与についてはどうお考えですか?新人の給与が高いように思うのですがどうでしょうか?
●東  給与については、給与テーブル全体の補正を行ったので上下での逆転はしていないと思います。唯一、逆転の現象があるといったら、相当の時間、残業していた場合に非管理職から管理職になったときの問題はあるけれども、それこそ健康問題になってしまうからそんなことがあったら、すぐ是正をしないといけません。
●士補会  それに人員を厚くして仕事を手分けすれば、一人の仕事量が減りますね。
●東  そうです。結局は、事務所全体で今の若手が育ったときに例えば去年まで2人でやっていた仕事を、何年か後には3人で分けるという形になるから、当然一人当たりの負荷は下がるのです。そうなったら、法人の経営が人件費倒れで立ちいかないのではないのと思うけれど、それは請求レートと回収率をアップすることで対応すべき話なんです。
我々はやはり、自分たちが自信を持ってした仕事は、100%お客さんからお金をもらわないといけません。自分たちの仕事を安売りすること自体が、誇りを持っていないことなので、組織を挙げて、100%回収率にもっていかないといけないと思います。
●士補会  では、離職率、定着率の改善の方策として、給与はどのようにお考えですか?
●東  先ほどの「声を聞く会」から集まった意見や、自己申告の声から、離職はお金の問題ではないということがあるのです。実際に辞めた人からも聞きましたが、賞与を5万円上げてもらったからといって辞めるのを思い留まりはしないという話でした。しんどいと思っている人ほど、問題の解決はお金ではないと思っています。
●士補会  むしろ、仕事量をいかに分担、軽減させるかということですね。
●東  そうです。いかに一人当たりの仕事量を減らすか、そして事務所としては、職員に対して現状の改善の方向性を具体的なビジョンで示すことが大事だと思います。でないと、今週これをやっても、また来週からあの仕事だ・・・と、ただ現場が変わるだけで何をやっているのかわからなくなると自分の現状自体が嫌になってきますから。
だから行き着くところは、「ワークライフバランス」です。自分のキャリアとか、自分の人生の夢とか、人生の価値観は個々人それぞれです。でも、仕事をすることによって得られる充実感もあるので、パーソナルライフと、組織に所属して仕事の結果もらった給与で自分の人生をエンジョイすることとのバランスを個人も雇用主である法人も、お互いに理解しましょうということになるわけです。だから、まず前提条件として、人と仕事のアンマッチを改善しないと、そんな話はできないんです。
●士補会  今一番大きいのは、人と仕事のアンマッチを埋めていくことであり、東さんはそこを一番に改善すべきだとお考えなのですね。
●東  そうです。その意味では、人の総量と仕事の総量は、少なくとも1年前よりは、格段に改善されています。ただ、去年の新人200人はもう何年か待ってちょうだいというのはありますが、旧「みすず」から加入された方々はみんな経験者ですから格段に改善されているわけです。
●士補会  では、みすずの方が入ってこられて、東オフィスと西オフィスが一緒になったばかりですが、事務所内での融合はどうでしょうか?
●東  融合するためにお金の問題を無視して淀屋橋の現オフィスに移りました。結果的に前の中之島オフィスは2年半しかいなかったわけで、だいぶお金をかけて移転をやったのにもったいないと、うちの法人内でも、まだ言われます。でも何百メートルの距離にしろ、同じ中之島でも別々のビルにいると、人はなかなか混ざらない。
●士補会  そうですね。今でもまだ・・・。
●東  もう少し時間が必要ですね。それと同じことを関西ブロックの京都、神戸、大阪の各事務所間でもやろうとしています。個人の気持ちからすれば、自分の居心地のいいところに留まりたいと考えますが、業務の品質やエリア毎の仕事と人のバランスのバラつきがないようにブロック内で、仕事と人は混ざらないといけない。時間はかかるけれど、組織として無理にでもそっちの方向へみんなを動かさないと。逆に放ったらかしにしていたら、混ざらないでしょ。それはお金や手間の問題ではないし、お金や手間を惜しんでそれをやらなかったら、たぶん5年先、10年先にものすごく後悔すると思います。
●士補会  そうですね、では事務所異動ということについては・・・。
●東  関西ブロック内部の部門間異動と思ってもらえるとありがたい。関西ブロックの中の大阪監査から例えば京都監査へ何年か行ってきましょうと。
●士補会  逆に京都から大阪に来るとか。
●東  また大阪監査へ戻るとか、逆にさらに神戸監査へ移るとかというのも可能性としてはあります。それを、これからずっと継続的な仕組みにしようと思うのです。
●士補会  私が理解していたこととは違いますね。
●東  決して行きっ放しだけではないですよ。
●士補会  そうなんですね。
●東  その誤解がありますね。だから、最初にパートナーの人に異動希望の手を挙げてもらうこととし、パートナーの人で嫌だと言ったら、私は直接説得するつもりでした。そんなことをパートナーが言うなよと。
事務所間の異動がなぜ必要かと言うと職員の人の評価がフェアじゃなくなるからです。例えば、大阪事務所のパートナーも、神戸事務所や京都事務所のシニアマネージャーとか、マネージャーを評価できるようにしないと、いつまで経っても、神戸や京都のシニアマネージャーやマネジャーは、神戸や京都のパートナーが評価して、結果的に、ここはちょっと評価が辛いからパートナー登用が1年遅れるというようなことがあればおかしいと思います。
定期的に人は動かさないと混ざらないし、水も定期的に混ぜないと澱み、濁ります。組織としてやらないといけないことと思います。
●士補会  今日のお話を聞いて、私が誤解していたことがよくわかりました。
では、次に業界の今後の展望に関してはどうでしょうか?
●東  まず、監査法人は、社会全般に対して、人材を輩出する機関という役割があり、ある意味で公器と思うのです。そこが、原点です。
●士補会  事務所としては、離職率、定着率を改善したいですが・・・。
●東  みんな個人の、ワークライフバランスがあり個人の価値観があるからどんな組織も100人が入って、その100人が30年後にもいるかといったらいないでしょ。
例え辞める人が優秀な人でも、個人の価値観だから仕方がないと思うのです。トーマツにいて得られることと、外へ出て得られることのバランスの判断はその人がします。ただ、嫌で、嫌で、閉塞感で辞めるという異常な状態は避けないといけないですね。
●士補会  そうですね。では、次に新人・若手教育についてです。新人教育とは、どこの分野に出しても恥ずかしくない人材を育てるということですか?
●東  そうだと思います。新人の最初の3年間は、ものすごく大事です。専門家としてのベースがこの3年間で出来上がり、組織としても最初の3年間にその人を育てられなかったことは、何年後かに組織として多大な影響が出てくると思います。
特に、去年みたいに、関西ブロック全体で200人採ったので早く一人前の戦力になってもらわないといけないという組織の考えがあったのですが、マネジャーやシニアの中で自発的に「新人を早く育てよう会」ができました。彼らは自分に降り掛かる切実な問題だから、自発的にやってくれました。この活動を直ちに本部に伝えて成果物を提供した結果、オールトーマツで役に立つものだから、と言うことで急遽、印刷し全国への配布がされました。
日本の経済が東京中心に動いていると、東京事務所だけがドンドン、ビッグになって、下手をすると東京以外の事務所は、「おんぶに抱っこ」でぶら下がってしまうかもしれない。
でもプライドがあるでしょ。ですから、例えば10回に1回でもいい、2回でもいいから東京以外の事務所からも発信しろよと思いますね。だから優秀な人ほど、本部へ行ってもいいし、東京事務所に移りたいと言ったら、移してあげようと思っています。若い職員でも、パートナーでも、こいつはやれるなと思ったら、できるだけチャンスを与えたいと思います。本部の役員会で、関西弁が半分以上を占めているところが見られたら多分、気持ち良いと思いますよ。だから、関西だから本部や東京にぶら下がるのが当たり前だと思わないで、と言いたい。
●士補会  やれると思う人にはチャンスを与えるし、自発的に行きたいというのであれば、行かせるといことですね。では、できる会計士となるために求められる資質や能力は、どのようなものだとお考えですか?
●東  一般の経済社会でも通じる幅広い知識と能力を身に付けてほしいですね。我々は職業専門家だから、監査と会計は知ってて当たり前です。それが話せないのは、その時点でダメで、プラスアルファがないといけない。話をするときに幅広い教養や何かを身に付けていないと、人間として、一人の社会人として、クライアントのトップと互角にものが言えないでしょ。
●士補会  なるほど、では最後に若手にメッセージをください。
●東  若い人は「指示待ち」が多いと感じますね。これは改めるべきだと思います。
そして必ず、言い訳が「そういうことを言われたことがなかったです」となってしまう。それは、自分で考えておかしいと思わないのでしょうか、言わなかった人も悪いけれど、言われなかったからいいというものではないと思います。
自分の人生に、最後に責任を持つのは自分自身です。自分が死ぬ間際になって、ああ、いい人生だったな、よかったな、楽しかったなと思うのは本人で、その人生の中の職業というのは、かなり大きな意味を持っていると思います。
まして、せっかく公認会計士になったんだから、色んな会社に行ったり、色んな人と付き合ったりというのは、まったくの受け身でやるより、自分から積極的にやる。それこそやった者勝ちだと思います。
●士補会  そうですね。
●東  やった分だけ、自分のチャンスが広がるわけだし、決してもらう報酬の多寡で、仕事の価値というのがすべて決まるわけではないけれど、最後は自分がどれだけ、自分の今までやってきたことや、これからやろうとしていることに熱意を持って、かつ、自分のやったことに責任を持てるかだと思います。
会計士の業界は、環境なりマテリアル等は揃っていて、反面、業界としてまだ歴史は深くないので、一般の事業会社ほど、組織はガチガチになっていないと思います。そういう意味では、この業界自体まだまだ伸びると思いますし、例えば、自分のキャリアの中で、この業界をステップに、もっと言えば監査法人なんか踏み台だと思ってもらい、とことん自己のキャリアアップに利用するくらいの考えでもいいんです。それくらいの覇気を持ってほしい。
●士補会  長い時間を頂き、また貴重なお話、ありがとうございました。
東  誠一郎氏(あづま せいいちろう)
略 歴 昭和26年7月23日生(57歳)
  昭和50年神戸大学経営学部卒業
  昭和50年第二次試験合格
  現在 監査法人トーマツ パートナー

(次回は、来年2月号に新日本有限責任監査法人市田龍事務所長を掲載予定)