報告
監査会計委員会研修会

井端 和男氏『最近の粉飾−その実態と発見法』

監査会計委員会副委員長
会報部副部長
上田耕治

 
 監査会計委員会では、平成20年8月27日(水)に井端和男氏を講師にお招きして研修会「最近の粉飾−その実態と発見法」を開催しました。当日は144名もの多数の会員に参加頂きました。この研修会は井端氏の最近発刊した同名著書を題したもので、同書はすでに会計監査ジャーナルの書評でも取り上げられており、また、本年1月の初版刊行後約半年で第2版が出版(8月)されるなど好評で、ご存知の会員も少なくないと思います。井端氏は総合商社で審査等を長く務められ、現在はその実績も活かして与信管理等を中心としたコンサルティング業務に携わっておられます。今でいう企業内公認会計士の先達ということができるでしょう。
 今回の講演は最近の倒産企業に焦点を当てたものでしたが、井端氏の企業分析は、外部情報のみに基づき伝統的な財務分析指標に独自の分析指標を加味しながらも、粉飾等異常時に見られる隠れた経営成績や財政状態の兆候を発見するもので、企業の内部情報にアクセスすることができる監査人にとっては新鮮ささえおぼえます。本稿では、当日披露頂いた井端氏の分析手法の一部を講演内容から紹介したいと思います。
 
1.粉飾発見に効果的な分析ツール
(1)自己資本利益率
   自己資本は債権者にとって一種の会社の担保のようなものである。自己資本比率は、株主だけでなく債権者にとっても非常に重要で、債務超過の会社は資産を簿価通り処分できたとしても全部の負債は返済できないので取引をしない方がいい。自己資本が30%ぐらいあれば1年ぐらいは大丈夫ということで、「30/10の法則」と呼んでいる。自己資本比率が10%未満の1ケタ台の会社には、実際は債務超過になっているが、粉飾して自己資本をプラスにしている会社も多いことから、自己資本比率が1ケタ台の会社には注意する必要がある。
   
(2)借入金依存度
   借入金依存度は、自己資本の反対概念のようなもので借入金を総資本で割った比率である。損失が発生したときには主に借入金で資金調達するしか方法はないのが通常である。粉飾等がなければ、借入金が増える以上に総資産や売上高が増えるので借入金依存度や回転期間は増えず減ることも多いが、損失が発生して資金の補てんを買掛金や未払金で調達できない場合には、借入金で資金調達をするしかないことから粉飾や倒産の発見に有用となる。
 借入金が増える要因に固定資産や設備投資の場合もあるが、その場合はキャッシュフロー計算書や貸借対照表から推定してその分を控除して適用する必要がある。
   
(3)基礎資金回転期間
   基礎資金回転期間は、独自の概念で、純資産と借入金を足して「基礎資金」と名付けている。損失が発生すると借入金が増えるが、借入金だけではなく、増資して自己資本で賄う場合もあることから「純資産+借入金」に着目している。
 通常、基礎資金が増える場合は売上高や買掛金の増加も伴うので、基礎資金回転期間には影響しない。このことから、粉飾発見の指標として役立つ。ただし、設備投資もあるので借入金依存度の場合と同様その分は控除して検討する必要がある。
 損失が発生して資金が流出すると借入金か自己資本が増えて、基礎資金は増えるが、損失が出ても適切に損失処理していれば、その分自己資本が減少するため基礎資金は変動しないことがこの指標の特徴である。粉飾によって(損失処理をしないことによって)基礎資金の回転期間が膨らんでしまうので粉飾の測定ができる。
 
(4)各種回転期間
   粉飾するとどこかに異常が出てくるので、粉飾の発見は異常の発見でもある。その異常は、資産を水増しした場合には資産の回転期間が増え、負債を隠ぺいした場合には負債の回転期間が減る。したがって、回転期間を見るのが一番便利だと思われる。特に売上高と因果関係から回転期間は効果的である。売上債権、棚卸資産や仕入債務などは、売上高に比例して増減するので、回転期間を測ると正常の場合には変動しない。しかし、不良債権が発生して売上債権が膨らんだ場合は回転期間が膨らみ、仕入債務を隠ぺいした場合は回転期間が減るので回転期間から異常を発見しやすいのである。
 また、総資産は必ずしも売上高に比例するわけではないが、いろいろな科目で粉飾する場合には、最終的には総資産が膨らむので総資産に注目することも有効である。
 売上債権と棚卸資産と仕入債務の三つを合わせたものを「3要素総合残高」と呼んでいる。「売上債権+棚卸資産−仕入債務」は売買資金尻だが、これの回転期間をとるのである。この三つの要素は、売上の増減に伴って大体セットで動くので3要素総合回転期間は、正常の場合にはさほど変わらない。ところが、異常の場合にはこの3要素総合残高が膨らむので非常に便利な指標となる。
 最近、四半期の情報が手に入るようになったが、売上債権や短期で回転するものは、四半期情報で計算する方が正確である。その場合、四半期の売上で算定した方が適切なであるることが多い。
   
(5)キャッシュフロー
   キャッシュフロー計算書からキャッシュフロー数値を見る場合には営業キャッシュフローを2つに分ける。キャッシュフロー計算書の小計の垣根を外し、売上債権、棚卸資産、仕入債務、流動資産、流動負債の増減を運転資本要素の収支として別立てにし、残りの部分を利益要素の収支として区分する。これは、粉飾では運転資本要素に異常が生じることが多いからである。粉飾した分だけ利益要素はプラスになるが、運転資本要素がマイナスになり、せっかく粉飾しても、キャッシュフローで見ると営業キャッシュフローではプラスマイナスゼロになるので、運転資本要素に注目すれば、粉飾に関してある程度の目処をつけることができる。
 ただし、運転資本要素は粉飾だけで悪化するのではなく、売上の増減によっても変動することから、キャッシュフロー計算書を見る場合には、現金商売や売上増加の後から仕入増加が生じるような「回収先行型」の会社と、仕入や在庫の増加にともなって売上が増加する「支払先行型」の会社のキャッシュフローの態様を同時に加味する必要がある。このような売上の増減に伴う運転資本の増減を推定し、それを控除して粉飾の兆候を把握する必要はあるものの、営業キャッシュフローの区分分析は粉飾の発見に役立つと考えている。
 投資キャッシュフローへの着目も有効である。粉飾は運転資本要素を影響させるのではなく、例えば貸付金や有価証券など、投資の項目を水増しすることもある。その場合は、投資キャッシュフローがマイナスになるので粉飾発見の指標となる。この場合、投資キャッシュフローは有形固定資産への投資なども含めて正常でも構造的にマイナスになっていることから、減価償却の効果を加味したフリーキャッシュフローを同時に考慮するなどの見方が有効になってくる。いずれにしても、投資キャッシュフローがあまり大きくマイナスになるのは何か粉飾があると考えられる場合が多いので、粉飾の兆候としては重要である。
   
2.最近の粉飾の類型
 粉飾は時代の顔である。最近2〜3年の粉飾についても、手口などに真新しいものはないものの、粉飾手段の適用・発覚後の対応などに顕著な差があり、時期ごとに異なる様相がみられる。そのような最近の粉飾の様相の差異には、監査の厳格化が何らかの形で関係しているように思われる。異なる様相とは、@IT産業等売上粉飾、A摘発告発型粉飾、B局地型小規模粉飾、C突発型大規模粉飾の4類型である。
   
(1)「様相1」IT産業における不適切売上計上
   平成16年にIT産業でいろいろ問題が起こったので、日本公認会計士協会は平成17年3月に「IT産業については特に深度のある監査をするよう」文書を発した。その効果はある程度あったようで、「こういう粉飾があって、こういう訂正をした」という公開はしないものの、闇のうちに粉飾を訂正して正常化に戻した会社も相当あるように思われる。様相1は、財務数値の変動から表沙汰になる間に修正したのであろうと推察される粉飾群である。したがって、こういう粉飾があってこういう訂正が行われたのではないかという推定の下で「様相1」と区分している。
   
(2)「様相2」監査法人による摘発や内部告発に より明らかになった粉飾
   平成19年3月期の中間決算つまり平成18年9月期の発表時期あたりまでに監査法人の摘発や内部告発によって摘発されたものを指している。これまでは粉飾があっても、その内容を発表することはほとんどなかったが、この「様相2」群は、粉飾の疑惑が出るとすぐ発表して外部の人も入れた特別調査委員会などに調査をしてもらう。その結果、過去にさかのぼって決算書を修正し、その修正した決算書を公開するという粉飾群である。このあたりから「粉飾情報の公開時代」が始まったといえる。
   
(3)「様相3」小規模で局地的な粉飾
   「様相3」は、「様相2」の続きで主に平成19年3月期決算発表時期ごろに相次いで起こった小規模で局地型の粉飾群である。局地型というのは、会社に内緒で個人や部門がこっそりやっている粉飾を指している。ただし、規模が小さくてもやはり特別調査委員会などを作って調査してもらい、それに従って過去にさかのぼって決算修正を行っているということで、粉飾情報の公開の流れの中にあるものである。
   
(4)「様相4」突発型大規模粉飾
   監査の厳格化が進んだ結果、大規模粉飾が終わって、その後は主に小規模局地型の粉飾になると推定し、「粉飾小規模化の仮説」を立てたのだが、すぐそれを否定するような事象が起こった。それが「様相4」で、平成19年9月と10月の2カ月にかけて、上場会社5社が相次いで倒産した。これらの会社は、自己資本比率なども高く利益も上げていて数字だけ見ると倒産すると思えないような会社であった。当然もっと内容は悪いのだけれど、粉飾でその内容を良くしていたが、限界が来て倒産したと思われる事象もかなりあるようである。これらの倒産後も、倒産ではなくても粉飾を公開する会社が続発しており、大規模な粉飾もあるということで、「粉飾小規模化の仮説」は甘すぎたという感がある。
 しかし、そういう大規模な粉飾が起こっても、それは監査厳格化の中で例外的に生き残ったとか、監査の厳格化が一時期ずれて実現したわけで、やがて監査の厳格化が徹底され、粉飾の小規模化が実現するという考えもあるだろうし、一方、やはり粉飾はいつの世の中でも変わらず、粉飾する人とそれを発見する人との綱引きで、大規模粉飾は今後ともなくならないという考えもあるだろう。私は、監査の厳格化が徹底して、最終的には粉飾の小規模化に向かうのではないかと観察している。
   
3.企業の財務構造の変化から見た最近の粉飾
平成9、10年度と17年度以降の倒産企業の比較から最近の粉飾の傾向を捉えると次のようなことが窺える。
   
@ 極端な総資産や負債の水膨れ企業は姿を消し、倒産企業でも総資産回転期間はそこそこの段階に収まっている。
A 自己資本比率が比較的高い状態で突然経営が破綻する企業が増えた。「30/10の法則」の効果が低下している。
B 「継続企業の前提」に関する注記が粉飾企業に関してはあまり役に立たなくなった。
  これらの傾向も含め、最近の粉飾事情が昔と非常に変わってきていることに注意した上で企業分析をする必要がある。

●プロフィール
井端和男(いばたかずお)
一橋大学経済学部卒業。日線実業梶i現双日梶j入社。条鋼鋼管部長、国内審査部長、子会社高愛鰹務取締役などを歴任。公認会計士・コンサルタント事務所を開設、現在に至る。日本公認会計士協会学術賞審査委員等歴任。