報告

「金融商品取引法における課徴金事例集」の解説について

監査会計委員会
委員長
 白井 弘

1. はじめに
 平成20年6月に証券取引等監視委員会より、市場監視行政の透明性を高め、市場参加者の自主的な規律付けを促進することを目的に、平成17年4月の課徴金制度導入以降、平成20年5月までに課徴金納付命令が決定され、決定取消しの訴えの期間が経過した36事例・52件について、その概要をまとめた「金融商品取引法(以下金商法)における課徴金事例集」が公表された。これを受けて監査会計委員会では、課徴金制度の概要および事例に関する理解を深めることで将来同じような事例が発生するのを防止すべく証券取引等監視委員会から河野様を講師にお迎えし、研修会の開催を実施した。
 
2. 研修会の内容
(1)  はじめに課徴金制度の概要について説明があった。課徴金制度とは、内部者取引(インサイダー取引)や開示書類の虚偽記載等の違反行為の抑制を図り、法規制の実効性を確保するという行政目的を達成するため、行政上の措置として、以下の金商法の規定に該当する者に対して金銭的負担を課す制度である旨の説明があった。
@ 虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者等
A 虚偽記載のある有価証券報告書等を提出した発行者
B 風説の流布・偽計により相場を変動させた者
C 相場操縦した者
D 内部者取引をした者
   
(2)  つぎに平成20年6月6日に成立した「金商法等の一部を改正する法律」により課徴金制度の一部が改正された旨の説明があった。
@ 現行の課徴金の金額水準が引上げられた(継続開示書類の虚偽記載の課徴金が従来の倍に引上げられた等)
A 課徴金の対象範囲が拡大した(継続開示書類不提出の場合も対象となった等)
B その他(例えば、除斥期間が3年から5年に延長された等)
   
(3)  「金商法における課徴金事例集」は、不公正取引に係る事例が23事例、開示書類の虚偽記載に係る事例が13事例掲載されているが、まずは、受講者の興味が高いと思われる開示書類の虚偽記載に係る事例について、虚偽記載が生じた理由ごとに分類しながら説明された。分類された理由は、以下の6つである。
@ 経理部員等の会計処理に対する理解不足による事例(事例33、36)
A 特別のリスクに対する管理体制の不備による事例(事例27)
B 業績目標達成のプレッシャーが強いことによる事例(事例24、30、31、32)
C 会社のコンプライアンスに対する意識が薄いことによる事例(事例29、34、35)
D 業績不振であることを隠そうとした事例(事例25、26、27)
E 理由が明確にならなかった事例(事例28)
   
(4)  続いてインサイダー取引についての説明があった。金商法166条では、会社関係者等が、上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った場合は、当該業務等に関する重要事実が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない旨が規定されている。違反した場合は、刑事罰か行政処分としての課徴金が課される。
@ 刑事罰:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(金商法197条の2)、没収・追徴(金商法198条の2)、両罰規定(金商法207条)
A 課徴金:課徴金額は、重要事実の公表前に行った有価証券の売付等(買付等)の価格と重要事実公表後の価格の差額から算出
   
(5) 会社関係者等とは、会社関係者、元会社関係者、情報受領者、情報受領者が所属する法人の他の役員等のことを指し、会社関係者には以下の者が含まれる。
@ 上場会社等の役員、代理人、使用人その他の従業者
A 上場会社等の会計帳簿の閲覧等の請求権を有する株主等
B 上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者
C 上場会社等と契約を締結している・締結の交渉をしている者
D 上記AまたはCの者(法人)の他の役員、代理人、使用人その他従業員
   
(6) 業務等に関する重要事実は、次の5つに分類される。
@ 上場会社等の機関決定に係る重要事実(合併、解散等)
A 上場会社等に発生した事実に係る重要事実(火災、上場廃止等)
B 重要事実となる上場会社等の売上高等の予想値等(差異が生じたこと)
C バスケット条項(投資判断に著しい影響を及ぼすもの)
D 子会社の重要事実(子会社に関する上記@からC)
  上記概要を説明されたのち、関連する不公正取引に係る事例を解説された。
3.

おわりに

   重大な法令違反をした場合でなければ、刑事罰は追求されない傾向がある。これを補うために行政処分としての課徴金制度が導入され、実際に、課徴金4万円程度の小さな事件であっても処分対象となっている。法令違反者は、課徴金の金額は小さくとも通常懲戒処分等の重い社会的制裁を受けており、課徴金制度導入の効果は大きいと思われる。このような実効性ある制度の導入により、不公正取引や開示書類の虚偽記載が抑制されることで、証券市場の信頼性が回復・向上していくことを期待する。特に公認会計士による不公正取引が2度と行われないことを願います。