特集

監査現場の再生に向けて 中日本五会6000人アンケートの実施

  監査現場再生特別委員会 委員長
佐伯 剛

 
 1. はじめに
  平成20年4月に近畿会、及び7月に東海会がそれぞれ発表した会員アンケート結果によれば、公認会計士のコア業務である財務諸表監査の現場で中堅会計士が疲弊し離脱する傾向が指摘された。

  これらを背景に、近畿会では「監査現場再生特別委員会」を設置し、疲弊しかけている監査現場の実情に的を絞り、在阪の監査法人大阪事務所長(あずさ・トーマツ・新日本・太陽ASG・仰星)、金融庁企業開示課、日本公認会計士協会本部(以下、「JICPA」)、日本監査役協会等へのインタビューを実施し論点の整理を行ってきた。

   以下はこれまでの検討結果の一部であるが、当委員会は以下の主要な論点をアンケートとして、直接会員に確認することとした。このアンケートは、中日本五会(東海・北陸・京滋・兵庫・近畿)の協力を得て、JICPA全会員の約25%の約6,000人を対象として実施されることになり、その結果を「提言書」として取りまとめ、平成21年3月を目処にJICPAに提出する予定である。
 
2. 主な論点
  これまでの検討結果で、監査現場疲弊の主な課題は、(1)「監査時間の不足」、(2)「専門家の活用」、(3)「会員処分等の正当性」の3点に大きく整理できるが、この中には既にJICPAが政策的に取り組んでいる項目が含まれる。
 
(1)監査時間の不足
(1)−1.監査事務所の品質管理体制
  上場会社監査の約8割を実施する4大監査法人(BIG4ファーム)では、@JICPAの品質管理レビュー、及びACPAAOBの検査はもとより、B法人内の定期的なレビュー、さらにC海外提携ファームによるレビューが実施されており、1年中レビュー又は検査を受けている情況にある。監査現場は、これらのレビュー・検査を強く意識せざるを得ず、膨大な監査マニュアルの運用において、相当程度の精神的な圧力を受けていると指摘されている。
 最上位の検査機関であるCPAAOB検査は、各監査事務所の規模・品質管理レベルやJICPAレビュー結果を斟酌し、大局的観点から有効かつ効率的な検査を実施することが望まれるとの意見がある。また、導入初回のCPAAOB検査で、例えば監査調書の1枚1枚のサイン・日付のチェックを行うような非効率な検査や、一部の検査官に見られた恫喝的な態度は控えるべきではないかとの意見が多い。
 
(1)−2.確定決算の早期開示
 マスコミ及び証券アナリスト等は、上場会社に対し決算の早期開示を要請する傾向が強く、証券取引所はこれらに対し特段の対応を取ることはない。ただ、この決算短信の早期開示が、実務上の監査時間を不足させる要因となっているとの指摘がある。監査意見が付されない決算短信に対し、監査人は当然に責任を持つものでないことを、監査事務所は被監査会社に明確に伝える必要があり、監査事務所の方針として徹底させる必要がある。    
 
(1)−3.制度の重複
 わが国独自の会社法と金融商品取引法における財務情報の開示制度、及びそれぞれに対する監査制度が二つ並存して存在している。二つの法制度の目的は相違するものの、開示内容は相当程度が「重複」しており、経済合理性から可能な限りの統合が必要との指摘がある。また、二重の監査制度については、監査人にとって二種類の監査報告書作成は監査手続を煩雑にしており、かつ、監査人の責任の側面からも一本に統一すべきとの指摘がある。
 
(2)専門家の活用
(2)−1.指導的機能
  これまで監査人の指導で、新しい会計制度等がスムーズにわが国の実務として定着してきたとの見方があり、現在導入されている内部統制監査制度においても、監査人と経営者の「協議」が求められている。近時、監査人の独立性を強調し指導性を否定的に取扱うことが、監査現場のモチベーションを低下させているとの指摘がある。 被監査会社の実態に応じた指導・アドバイザリーは、結果として監査環境を改善し監査効率を高め、ひいては監査現場での「やりがい」に繋がる一方、適正なディスクロージャーを促進することに繋がると考えられる。
 そこで、いわゆる「二重責任の原則」の枠内において、会計士の指導性を投資家・株主が容認できる範囲で(例えば、監査役等の事前承認を受ける等)必要に応じ認めることが望ましいとの意見がある。
 
(2)−2.専門家としての裁量
  監査現場疲弊の要因として、わが国の経済インフラ全体の会計・監査専門家不足が指摘される。例えば、CPAAOBの検査を強く意識し監査調書で細大漏らさず文書化しなければならないとされ、その風潮が監査現場疲弊の大きな要因と指摘されている。これに対し、同検査官の専門知識レベルをさらに上げ、相互に口頭で補足・補完し合える文書化の十分性について検討を進める必要がある。
 また、わが国の監査環境を改善するため、例えば@企業内会計士(内部監査・経理・企画等)が確保される試験制度・合格者研修の見直しや、A社外監査役への公認会計士の就任を義務化し、外部監査・内部監査・監査役監査のかさ上げによりコーポレートガバナンスを定着させていくことが必要とする意見がある。
 さらにB行政(CPAAOB・証券取引等監視委員会・検察庁)・司法での会計・監査専門家の中途採用・関与等を通じて、会計・監査の職業的専門家の能力が実務で活かされ、会計不正事件において監査人と同等に経営者・監査役等のコーポレートガバナンス責任が社会的に公平に追求される経済社会インフラの整備が必要である。
 
(3)会員処分等の正当性
(3)−1.JICPAの処分
 JICPAは綱紀審査会を独立させ、外部有識者2名を加えて機関とすることで、組織ガバナンスの強化を実施したことは評価される。しかし、その反面、会員処分の手続が複雑となり、処分が遅く・不透明となったとの指摘がある。JICPAは「会員の利益」より「公的な利益」を優先し、綱紀事案の審査期間の目安である「12ヶ月」(綱紀審査会規則第3条第2項)を、より一層に遵守する必要があるとの指摘がある。
   例えば、社会的に影響を与えた綱紀事案が、種々の事情により審議が異常に長期間(例えば4年)を経過した場合、結果として、その審査内容が会員及び社会から評価されるよりも逆に批判される可能性がある。JICPAは審査が早期に実施できる体制強化を行う必要があるとの意見がある。
 
(3)−2.金融庁の処分

  近時、JICPAの会員処分に先行した金融庁の公認会計士処分が重く受け止められ、処分や訴訟を過度に意識した「萎縮」が監査現場に影響を与えている。金融庁の処分内容が監査判断に及ぶと思われる場合、JICPAは当該処分により不利益を受けると認められる会員との利害関係(公認会計士法第34条第2項)、及び当該会員の意思を確認した上で、その処分事案の十分な事実確認を行う必要がある。
  今後、会員が必要と認めた場合、JICPAは金融庁の聴聞・審問へ参加人(公認会計士法第32条第4項、行政手続法第17条)の資格での同席や、調書の謄本等の提供を金融庁に求め、自律した職業的専門家団体として自らの会員の処分に対し、必要に応じ関与できる仕組みが必要であるとの意見がある。

 
3.むすび
  疲弊しかけている監査現場の根源的問題は、監査人自らにあると考えられる。公認会計士及び監査法人は、財務諸表監査の国家資格を唯一与えられた職業的専門家及び法人として、監査現場再生に向け主体的な発言をする必要がある。 是非とも、「中日本五会6000人アンケート」にご協力頂き、平成21年1月13日までにご意見をお寄せ頂きたい。