特集

「監査法人 事務所長へのインタビュー」

仰星監査法人 大阪事務所長 谷 晋介氏

日本公認会計士協会会計士補会近畿分会

インタビュー趣旨
現在、日本公認会計士協会近畿会では3,773人もの準会員が所属しています。(平成21年4月末現在)これだけ若手が多くなってしまうと、トップの想いを若手が知る機会は少なくなってしまうのではないでしょうか? 今回、「監査法人のトップにご意見を伺い、若手、特に準会員のモチベーションアップを図る」ことを目的とし、各監査法人の所長にインタビューを敢行して参りました。各監査法人のトップの現在の監査現場、人事制度、そして会計士業界の将来に対する熱い想いを語って頂きました。 なお、本インタービューは、原則として過去2年間5名以上の新入職員を採用された監査法人を対象としております。    

(会計士補会 近畿分会)

士補会  早速ですが、略歴を教えていただけますでしょうか?
 私は、昭和49年に神戸大学経済学部を卒業後、野村證券に入社しそこで1年半勤め、いわば脱サラで会計士の世界に入りました。昭和53年に2次試験に合格し、デロイト・ハスキンズ・アンド・セルズ公認会計士共同事務所の大阪事務所で4年間勤め、その後、税の実務を学ぶために、岸和田の米本公認会計士事務所で2年間勤め、それから独立しました。32、33歳ぐらいの時ですかね。
士補会  仰星監査法人の前身である北斗監査法人には、どういった経緯で入られたのですか?
 私は、仰星の理事長で協会本部副会長の澤田さんと同期なのですが、開業して2年経った頃に彼からかかってきた電話がきっかけですね。「一緒に事務所をやらないか」と言われ、株式会社トップブレインという会社をつくりました。それが母体になって、同世代の仲間が6人集まり、平成2年9月に仰星監査法人の前身である北斗監査法人をつくりました。
 その頃は自宅で開業しながら、デロイト事務所へパートに行っていました。そのパートのときの現場のインチャージは、現近畿会会長の中務さんでした。いつまでも家で開業しているわけにもいかないし、せっかく、親友の澤田さんが声をかけてくれたのだから、その波に乗って、一緒にやるのもいいかということで、すぐに引き受けました。
士補会  なるほど。では次に、事務所展望ということで、仰星と、他法人と比較した場合の強みや弱み、要改善点等で感じていらっしゃる点があれば教えて下さい。
 最初は強みと弱みの話ですね。最近私は、就職説明会や事務所の若い人に強みも弱みも規模が小さいことだと言っているのですよ。
 大手監査法人に比べて、圧倒的に我々は小さい一方で、圧倒的に小さいのだけれども、特定の分野で戦って、簡単に負けてしまうほど小さくはない。
 ただ、もう少し大きくなければならないとも思っています。現在、うちの事務所は大阪事務所で40名程、東京・名古屋事務所を合わせて120名程なのですが、やはり、倍ぐらいの組織、200人から250人ぐらいにならなければダメですね。それ位の規模になれば、おそらく限られた土俵であれば、大手三法人と互角に近い戦いができるのではないかと思っています。そういう意味で弱みも強みも、小さいことだと言うようにしています。
 次に、事務所の特徴は、コープ(COOP)と言っています。これは我々の大事にしている組織文化といったようなものですかね。まず、CなんですがこれはコミュニケーションのC、これは非常に大事にしたいですね。Oは、二つ続いているのですが、最初のOはオリジナリティー。次のOはオープンなのです。Pはプロフェッショナル。この四つを我々が徹底すれば、必ずユニークかつ、マーケットで評価される組織になるだろうと、口を酸っぱくして言っています。
士補会  これは、事務所全体でのスローガンのようなものですか?
 そうですね、大阪事務所で所長として僕が言ってるんで、全体に浸透しているかどうかはわかりませんけどね(大笑い)。さらに詳しく説明させてもらいます(笑)。まず、1つ目のC(コミュニケーション)ですが、これは様々な局面のコミュニケーションを指しています。対クライアントはもちろん、業界内外や監査チーム内でのコミュニケーションを重視しようと言っています。
 次に、COOPのO(オリジナリティー)についてですが、仰星で言うと大阪事務所のこの小さな組織だけで、2,300ページ、重さにして2.4kgの組織再編の本をつくっています。この本は、手前みそではありますが、税務・会計のプロには評価されているんですよ。得意の自画自賛ですな(笑)。さらに、当法人はJ−SOXのコンサルティングツールを独自のメソドロジーに基づいて開発し、会社がJ−SOX対応をスムーズにできる様にするソフトまでもソフト開発会社と共同で独自開発しています。また、内部統制監査・四半期監査を含む一体監査を効率的に進めるための監査ツールも「監査メソドロジーメイドインジャパン」を目指して開発に着手しているところです。中小監査法人の中で、こういった独自の動きをしているということがオリジナリティーということですね。
 COOPの二番目のO(オープン)についてですが、事務所内外で様々なネットワークを組んで仕事をしようという思想を持っています。その為、共有すべき情報はなるべくオープンにしようということですね。
 最後のP(プロフェッショナル)も非常に大事。これについては、コンサルタントの波頭亮さんが書いた「プロフェッショナル原論」(ちくま新書)という本が大変参考になると思います。若い方々には必読でしょう。その本では、プロフェッショナルについて五つの掟があると書いてあります。
 一つ目は、「クライアント・インタレスト・ファースト」。これは顧客第一主義こそがプロフェッショナルであることの重要な要件ということです。但し、公認会計士が行う監査は、私的財ではなくて公共財であるが故にサービスの最終的な受手が、ステークホルダーである点で少し他のプロフェッションとは違いがありますがね。
 二つ目は、「アウトプット・オリエンティッド」。つまり、成果を出せということなんです。出てきた成果そのものが、僕らの仕事の評価ですから成果を出すことが求められます。
 三つ目は、「クオリティ・コンシャス」。これは品質追求ということなんです。
  四つ目は、「バリューベース」。これはコストベースではなく、バリューに目を向けて仕事をすることを指します。例えばコストを節約して利益を上げる。これは普通のカンパニーでやりますね。でもコストを安くしようとか、そんなことを考えるようではプロじゃない。バリューを出すということがプロの仕事なんだということですね。
 最後の五つ目が、「センス・オブ・オーナーシップ」と言って、色々な訳し方があるのですが私は当事者意識だと言っています。J1、J2、J3でも自分が経営者だったら、自分がここの業務執行社員だったらという意識を持って仕事をしていこうと言っています。
士補会  なるほど。熱いお話ありがとうございます(笑)ここで、少し質問が飛んでしまうのですが、協会会務や会計士補会についてお伺いしたいと思います。会計士補会活動は、少しずつ認知度が上がっているのかなと思うのですが、事務所としてこういった協会活動に対してどのように対応されていますか?
 私自身、事務所内部では、アウト・サイド・コミュニケーションの一環として、できるだけ会務に参加していこうと、繰り返し言っているのですよ。もしスタッフの人で、そういうことをやりたいという人がいたらどんどん参加してもらったらいいと思いますね。私たちも若いときに会務に参加して、先輩の偉い先生から指導を受けたことは、今でも覚えているし、それが、今の自分の基盤の重要な部分をつくっていると思うので、皆さんが協会活動に出るということは大事だと思っています。
士補会  ありがとうございます。次に、人事給与について、お伺いします。数年前は就職難であり、一方、一昨年は科目合格者ですら採用していました。かと思えば、今年度からは就職氷河期が来るというように、非常に行ったり来たりと場当たり的な印象があります。 これについて、どうお考えなのかという点と、今年度以降の御法人の人事政策について、お聞かせ願えますか?
 我々の業界は適切な採用という意味では後手後手に回ってしまっていると思います。これだけ採用の需給がぶれたら、受験者が可哀想だし、難しい時期にこの業界を志し監査法人に入れなかった人もいるし、これは決して良くないと思います。
 仰星の今年度以降の人事政策としては、毎年継続して採りたいと思っています。というのは、皆さんが試験に合格して、すぐ公認会計士の価値が出るかと言えばそうではなく、組織に入って、監査をやって初めて、その経験の中から価値が出るのです。合格しただけでは価値はほとんどないわけです。監査法人に受け入れられなかったら、価値の積み上げをすることのできない試験合格者を出してしまうことになってしまう。これは結局、本人にとっても、業界にとってもいいことではないですよ。どうしても現状のように合格者を3,000人も出すと、就職できない人が出てくるんですね。そういう事態にならないように制度的な検討が必要と思いますが、採用していくということだと思っています。

士補会  今、お伺いした話と関連しているのですが、一昨年から試験合格者の売り手市場の状況があり、どの監査法人も初任給をかなり上げたと思います。新卒の準会員のレベルからすると、高過ぎるのではとも思います。
  例えば大手法人だと、個人差はあると思いますが、スタッフが一番昇給したということを聞いたことがあります。本来であればシニアの3、4年目であったり、マネジャーであったり、そこが本当に現場の中核を担うと思うのですが、そこを上げたほうがいいのではないかなと思ったのです。  
 こういう意見に対して御法人では、どのようなご対応をされているのでしょうか?
 2年前ぐらいですかね。売り手市場になって、初任給を大手が上げました。そのときに我々も追随すべきかどうかということが、社員会で議論になりました。結局、初任給を上げることになったのですが。
士補会  スタッフを上げて、マネジャー等はどうだったのでしょうか?
 玉突き的に少しはベースアップしましたね。
 私は、20年前から問題意識として、本当に仕事ができている中核世代の給料を上げるべきだと考え、新人は1年後2年後から差を付けたらいいと私は思っています。だから、本当はシニアになった位にどんと昇給する方が良いのかもしれませんね。口で言うのは易しいけれども、ここは非常に難しい問題です。
士補会  ありがとうございます。その続きということで、業界展望というお話をお伺いしたいと思います。  
 今後経済情勢・雇用悪化の影響で大手から会計士が辞めなくなるとどうなると思いますか。皆が辞めないでどんどん採用していったら、出来る出来ないにかかわらずなかなか切ることは出来ず、人材の流動性が低くなりませんか?
 そうですね。流動性は低くなると思いますね。プロフェッショナル・ファームの一つの特徴は、アップ・オア・アウトなのです。例えば、海外のBIG4でも、普通の会社、カンパニーよりもアップ・オア・アウトが徹底されています。これからは大手監査法人も、給与を含む諸待遇に対していろんな方向に、私は動き出すと思います。そうでないと組織がもちません。そういう意味では、一方において広く会計士が受け入れられる経済社会の土俵をつくって行かないと駄目なんでしょうね。
士補会  何かそういう大胆な施策が必要ということですよね。
 そう。現状でしたら、ありがたいことに会計士業界では新しい仕事のフィールドがどんどん増えています。ただ、いずれはそういう話も止まることを考えると、やはり停滞感・閉塞感が出てくる。その時にどういうやり方をするかと言えば、アップ・オア・アウトも、組織の活力を維持するひとつの方法だと思うのです。でも、外資系と同じようなアップ・オア・アウトの発想は日本の組織文化には馴染みにくいし、その上、組織が大きくなればなる程、このアップ・オア・アウトの徹底は難しいと思います。つまり、これからは、大手法人、中小法人を問わず、組織活力維持のためにはいろんな工夫が必要だということでしょう。
士補会  御法人ではどうされるのですか?
 なかなか難しいですね(笑)私も若い人達に、波頭さんの本を読ませたうえで、「アップ・オア・アウトをやる」と言ったら、「いや、それは理念としてはわかりますが、ちょっと問題が…」という風に言われましたね。
士補会   非常に難しくデリケートな部分なのですね。それでは業界展望ということであと二つお伺いしたい点があります。一つは、例えばコンサルティング、IPOのように監査以外にも色々なフィールドが会計士業界に広がってきていると思います。しかし、ほとんどの新人が最初は監査部門に配属されますが、そういった監査以外のフィールドを目指す場合、監査の中でどういう点に気を付けて、どういう訓練を積めばいいかアドバイスを頂けますでしょうか?
 最近、最初からコンサルタント会社に行きたいという若い人が増えています。仰星の説明会に来た人の中にもいました。でも、そういう人たちには3、4年監査を経験してそれからコンサルティング等の自分の好きなところへ行けと言っています。
 公認会計士の競争力を生み出す源泉、コア・コンピタンスは、監査だからです。だから、徹底して監査を経験することが大事だと思います。
 その為には、できたら監査は面白いんだなと思えるような上司に恵まれることです。そして、自分が与えられた仕事の中で考えながら仕事をする。そういうことを3年、4年徹底してやって、それから好きな方向に進んだら良いと思います。
 特にコンサルタントをやりたい人に言いたいのは、コンサルタント業界に入ってくる人というのは、とても地頭のいい人が多く、会計士試験を受かるぐらいの頭では彼等にはなかなか太刀打ちできない。しかし、公認会計士になって監査を3年、4年経験した人たちは、その経験が絶対的な競争力になり、自分の強みになります。コンサルタント業界を目指す様な人も監査の経験をしっかりやることが大事で、ただ漫然とやるのではなくて、いい先輩のやり方を盗み、与えられた仕事もただ漫然とやるのではなく、考えながらやるということが大切だと思いますね。
士補会  他の業種をやりたいのならば、監査をしっかり経験してからということですね。わかりました。では、業界展望でもう1つ聞かせて下さい。
  今、公認会計士資格者は、税理士登録を行うことができるという制度になっていますが、税理士会が非常に反対していますよね。一度、何年か前に要望書が提出されたように記憶しています。日税連がまたその種の要望書を提出したと聞いていますが、これについていかがお考えでしょうか。
  税理士登録できなくなると業界としての魅力が相当弱くなると思いませんでしょうか?
 弱くなると思いますね。
士補会  それは、新しい人がなかなか入ってこなくもなりますし、独立を目指す人の向かい風にもなると思います。
 確かにそうですね。これについては、公認会計士協会は今までも、税理士会に対する反論を行ってきました。また、弁護士会もそれに対する明快かつ格調の高い意見を公表しています。
  税理士会のほうは「税法の試験を受けていない」とか色々言っています。しかし、重要なことは、公認会計士としてのプロフェッショナルな様々な経験を持っていること、つまり、試験を受けているか、受けていないとかということよりも、基本的な監査・会計の専門家としてのプロとしての資質があるかどうかです。協会の方でも、今後、この問題についての明確な反論を公表していくと思うので大丈夫だと思いますよ。
士補会  わかりました。安心しました。
  それでは次の質問をお願いします。教育について、最近の合格者は、レベルが落ちてきていると言われています。具体的にどういう方法で改善することができるとお考えですか。また、新人教育について、御法人としてはどのように取り組んでおられますか?
谷   やはり難しいのは、教育プログラムを充実させるという点ですね。大手監査法人と比べ、仰星は新人教育についてのプログラムが未熟だなと思いますね。
 ただ結局、勉強は自分でするものなのです。強制的にするのではなく、自分たちが自主的に勉強する会をつくって活動してほしいということを、事務所長として若い人にお願いしているのです。これも別に強制ではないので、私が言って、それがなかなか立ち上がらなければ、それはそれで仕方がないと思うのですけれどもね。
 具体的には「君たちはプロなんだ」という入り口のところをもっと教育するべきだと思います。自分が勉強しなかったら、自分のバリューは上がらないのだと。ただ、様々な本を読んでもなかなか難しいと思うのです。だから、そのために入り口で色々な誘い水を組織がつくってあげることが大事なのだと思います。
 さらにジョブ・コミュニケーションも非常に大事だと思います。監査の現場では非常に様々な問題が起きています。だから若い人も聞き耳をたてて、上の人がどんな議論をしているのか聞けばいいんですよ。そして「いや、谷さん、それは違うんとちゃいますか。」とか、「そのことは小六法にこない書いてまっせ。」とか、逆に教えてほしいものです。そういう議論を若い人たちが私達ぐらいの60歳近い者と堂々と議論できる、そういう組織でありたいなということなのです。
士補会 ありがとうございます。プロとしてのゾ各が出発点だということですよね。肝に銘じます。それでは最後に若手会計士に向けてのメッセージをいただけますか。
 繰り返しになりますが自分達がプロフェッショナルだということを自覚してほしいですね。それですかね。やはりそこに尽きます。そういう人に、皆さんがなって欲しいなと思います。
 北斗監査法人と付けた由来でもあるのですが、論語の中に「子曰わく、政(まつりごと)を為すに徳を以ってすれば、譬(たと)えば北辰其の所に居て、衆星之に共(むか)うが如し」という言葉があります。これは北辰(北極星・北斗七星は北極星の位置を示す星)のように不動であっても、徳があれば優秀な人間が集まってくるということです。
 つまり私が言いたいのは、この徳というのはわれわれの業界で言えば、プロフェッショナリズムだと言うことなんですよ。プロフェッショナリズムというのは、単に専門性が高いというのは当たり前で、それだけでは駄目なんです。公益への奉仕という使命感(志の高さ)そしてインデペンデントな立場を持ち続けることがもっと大事なんです。
皆さん若い人たちが、プロフェッショナリズムを強く持っているととなり、業界を牽引する人材に成長してほしいですね。
士補会  プロフェッショナリズムを大事にしろということですね。
 そういうことですね、そこに尽きますね。
士補会  わかりました。それでは長い時間ありがとうござました。
 
谷 晋介氏(たかたに しんすけ)
略歴 昭和26年12月30日生(57歳)
  昭和49年  神戸大学経済学部卒業
  昭和57年  公認会計士登録
  現在 仰星監査法人 大阪事務所 
  大阪市中央区久太郎町2-4-11
  クラボウアネックスビル