プレイバック会計本
(会報部)

「最新監査論」 〜高田正淳著(中央経済社)

 
急速に若年化が進行している近畿会の会員読者(会員総数3773名のうち準会員が約36%の1373名 平成21年4月30日現在)に、本書の内容と本書が時代の中での意味が、ご理解頂けるか大変気になります。
 本書は1979年(昭和54年)に初版が出版されています。改めて読み返しましても、「リスクアプローチ」「内部統制監査」「四半期財務諸表監査」「情報システム監査」「審査・品質管理」といった項目が存在しないことが気にならないくらい、30年後の今なお清冽で、「最新」というストレートなタイトルにも不思議に違和感がありません。
 
本書を読み返して、改めて感じますのは、以下の2つの点です。
 まず、本書は、公認会計士試験の受験生や監査を学ぶものにとって、経済学の分野の中谷巌著「入門マクロ経済学」(日本評論社)のような本といえるのではないでしょうか。多くの初学者に対して、それまでの専門書は大変とっつきにくく、難解であったろうと推測されますが、「監査論(経済学)って、意外とわかり やすい!」「あぁ監査論(経済学)って、こんな感じなんだ!」と、大変明快で平易、しかも知らぬ間にその学問の全体構成と課題を相当体感できてしまう革新的テキストでした。本書は、昭和52年から「公認会計士二次試験講座」への連載を基本に修正加筆され、監査論の入門書あるいは受験用テキストとしてとりまとめられたものであるため、著者のお考えを徹底的に展開することをできるだけ差し控えられ、そのため、その後の監査論の理論構成の基本的理解に欠かせない本となりました。筆者の所有する昭和60年発行本でも監査論の専門書としては驚異的な第35版です。監査の基本構造の理解を広く普及させた点で傑出した存在であることです。
 また、本書は、実学である会計学の中でも、さらに実践的色彩の濃い分野として見られていた監査論を、マウツ=シャラフ“The philosophy of Auditing”(1961年)や、アメリカ会計学会基礎的監査概念委員会“A Statement of Basic Auditing Concepts”(1972年)を基礎とすることで、アメリカ監査実務の翻訳的紹介から脱して、ドイツ会計学の深い理解に裏打ちされた学究的探求によって深められ、絶妙に仕上げられたことで日本の監査論の基礎的理論構成を定着させられました。本書の基礎となった研究は、日本会計学会の学会誌である雑誌『会計』に「監査基本問題の研究」と題した11回の連載(昭和49年1月より昭和50年1月まで)に発表されましたが、そこでの、監査を必要とする経済的利害関係の分析、監査の定義と範囲、監査判断の構造的解明、会計原則の役割の検討、監査証拠とそれに基づく要証命題の論証過程の分析、適正性概念の明確化、監査報告書の情報提供機能の検討などは、重要論点でありながら従来の研究ではほとんど検討が進んでおらず、これらのテーマについて著者の独創的で学究的考察が展開されたことで、多くの研究者の強い関心を集めたようです。(おそらく当時の監査論研究者は、その後10年間ぐらい、独自の研究テーマ探しに苦労されたのではないかと推測されます。)本書では独創的な見解は全面的に削っておられるものの、抑制の効いた簡潔な文章からは、むしろその背後での考察の厚みを感じさせられます。 
 先生が削られた独特の香りを持った高田監査論が別の著作にまとめられることなく現在に至っていることは、筆者には大変もったいないことだと思うのですが、おそらく先生は、会計や監査について社会の有力な方々の理解を得てその地位向上することに比べると大きな問題ではないと思っておられたのでしょう。
 
 意外に感じられるかもしれませんが、高田正淳先生は、戦後ドイツへ留学され、学者としての草創期にはドイツ会計学の収支損益計算論の研究に大きな足跡を残され、学界での地位を固められました。昭和41年(当時35歳)に、日本会計研究学会の太田賞を受賞され、経営学博士となられたのもこうした研究に対するものです。
 先生の監査論研究は、久保田音二郎先生の指示により本格的には昭和40年頃から始まり、その後、学界に限らず多方面の出版物に驚異的ペースでの著述がなされています。 
 30歳台以下の世代の会員には信じられないでしょうが、経済界では昭和50年台に入っても、会計ましてや監査はまだまだで重視されていた訳ではありませんでした。高田正淳先生は、この後、大蔵省の企業会計審議会、法務省の商法改正プロジェクトといった行政機関、関西経済連合会、日本公認会計士協会、監査学会の創設と運営を通じて、会計と監査の経済社会での地位向上のための活動に莫大なエネルギーを注がれました。そのエネルギーの注がれ方は尋常ではなく、先生を良く知る他の研究者ですらも、その後の監査研究の進展を大いに惜しまれていました。先生はそうした声にはあまり意に介されず、「今必要なことをする。」と割り切られていたようでした。先生のこうした活動は、平成3年の監査基準の根本改正に至るまで続き、学者としての円熟期を啓蒙活動に捧げられました。
  最近の公認会計士試験の合格者数の増加を背景にした、公認会計士の税理士会への入会制限の問題や、会計参与や政党助成金監査を切り口にした税理士への限定監査の制度化の動きが活発化するのを見るにつけ、この時期の、先生の著述が整理して上梓されたらという思いを禁じえません。
 この小稿が、30歳台以下の世代の会員の目に触れることで、高田正淳先生や先生と同世代の多くの先達が、貧弱な環境の中、次世代ための土台作りに心血を注がれたことを、多少でも感じて頂ければありがたいです。
 

(高田先生のご業績に興味を持っていただけた方は、長年先生と身近に接しておられた桜井久勝教授の書かれた記録を下記サイトよりご入手下さい。

 http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_00175099