報告

大阪市公正職務審査会委員の活動報告

コンプライアンス委員会 五郎川 康

 
 大阪市の公正職務審査委員会委員に就任以来3年数ヶ月になりますが、此の度中務会長より、公認会計士としての活動の場が企業等の会計監査以外の領域にもある事を会員の皆様にお知らせする事は意義が有るのではとのご教唆により、同委員会の委員としての今までの活動内容の概略を苦労話を交えながら皆様に報告致します。
 
1 大阪市公正職務審査委員会「通称 コンプライアンス委員会」の設立趣旨
 コンプライアンス委員会は、平成18年4月1日、当時の大阪市助役大平氏の強力な後押しにより関市長が決断し、「職員の公正な職務の執行の確保に関する条例」が施行され、議会の同意により発足し、選任された外部委員3名の構成により活動を開始したものです。
 その目的は、職員のカラ超勤、厚遇問題等により市の行政執行に関して大きく損ねた市民の信頼を回復する為、市政改革の一環として社会的責任を遂行する為の組織体質の構築を目指すものです。具体的には、大阪市民あるいは市の職員等が、市職員や委託先事業者(所謂外郭団体)の役職員の職務執行に関して、法令等に違反する事実を認識した場合に、コンプライアンス委員会に通報が出来る制度(所謂公益通報制度)であり、コンプライアンス委員会が必要と判断すれば、通報者の保護を前提としながら、必要な調査及び検討を行い、必要に応じての改善措置や再発防止策を講じるよう市長に求めるものです(市長に対する勧告書または意見書の提出)。市長は勧告に従い改善措置を図る義務があります。この様な措置により市行政の透明度を上げ、もって市民の期待に応えるものです。
  同様な組織は政令都市を含む他の自治体にも散見されますが、大阪市の制度の際立った特徴は、通報者を限定していない事(大阪市民以外でも良い)、匿名の通報も可、対象は単に法令違反に止まらず人の生命、財産の危険が生ずる恐れ、環境破壊、その他の不適正な事実を含むかなり広範囲なものと為っており、“市の役職員の職務の執行に関するもの”であれば、全て対象に為り得るとしている事です。又通報の窓口は、本庁、24の局、24の区に加え、外部委員にても受け付ける事が可能と為っています(外部通報)。通報手段は、面会、インターネット、ファックス、郵便、電話(除く外部通報)等、通報の為の環境整備に十分に配慮が為されています。この様な全国の他の自治体では見られない、市の行政改革の為であれば“誰からでも何でも受付けます”と、市民に広く門戸を開く姿勢を打ち出した為、毎年相当数の通報が寄せられ、委員会の活動も活発を極めています。
 
2 コンプライアンス委員会の構成と活動概要
 委員会は、委員長として辻公雄弁護士、同氏は森永砒素ミルク訴訟事件では、中坊公平弁護士と共に弁護団を率いて闘った、大阪市の職員厚遇問題ではその調査団を率いて大掃除を行った。あるいは、大阪市を相手に市民オンブズマン代表として行政改革を要求する等の、自称市民派弁護士として広く名を知られた方であり、もう一人の委員の関根幹雄弁護士は、中堅弁護士として、日常業務に多忙を極める一方、大阪弁護士会の副会長の任にあった方です。その中で、法律には素人の私が3人目の委員としてどの程度市民の期待にお応え出来るか、当初は不安を抱きましたが、大阪市民であれば、どう考えどう行動するかを判断基準として、常に市民の目線から事案について調査、検討、審議、意見形成を行うよう心がけて来ました。過去の委員会に対する通報数、調査対象数、市長への勧告数とその内容、勧告には至らないが意見または付言とした数、委員会の開催日数、審議内容等については、大阪市のホームページのコンプライアンス委員会のセクションにて開示されていますので、ご興味のある方はアクセスされてはと存じます。
 いずれにしても各委員はそれぞれの視点から、年間700〜800件の通報数の全案件について事前に目を通して問題点の把握、自己の考え方と意見の整理をして委員会に臨みます。その結果調査が必要となれば、本庁の10数名、各局及び各区の公正職務担当者が実地調査に当たります。当該部門は市長直属の部門にて行政の遂行に関する全ての業務に対して調査権が付与されています。
 先年静岡県の要請により、同県の幹部職員に対してコンプライアンスの一日研修を担当させて頂きましたが、その折に聞いたところでは、同県では、年間の通報件数は10件に満たないとの事にて、大阪市が如何に多いかを実感しましたが、公益通報制度に対する自治体の取り組み姿勢の違いがその大きな原因の一つではないかと思っています。
  従って、委員会の開催数も制度発足以来、現在125回を数えています(月に3回程度の開催)。委員会は全員出席が大前提ですので、各委員の業務の都合もあり、通常平日の午後6時〜6時半にスタート、審議時間は3時間〜4時間と為っています。当初は議論伯仲のあまり11時近くにもなる時もありましたが身体的負担も考慮して、現在では審議時間は3時間を目安としています(予定オーバーが多くなる傾向ですが・・・)。
 昭和13年生まれの私にとっては、夜遅く迄の長時間の会議は身体的負担も大きいので、私の要望を受け入れて頂き、時には夜の審議に代えて土曜日に開催しています。その点、当初委員就任を近畿会から依頼頂いた折には、年に数回程度の委員会活動と聞いていましたので、大きなギャップを感じています。但し其れだけ委員会への期待が大きいとの解釈から頑張っている次第です。
 委員会は原則として本庁の会議室にて開催されますが、その性格上、市当局からの夕食等の用意は全く期待していませんでしたが、審議の場には、大阪市水道局製造のペット・ボトル一本の水のみが用意されている状況にて、空腹による思考能力が低下するのを避ける為、審議開始前に近くのコンビニにて握り飯やサンドイッチを買い込み、それを頬張りながら審議をしています。尤も暫く前から市の事務局の職員の方に購入の手配のみお願して手間を省いている状態です。
 委員会開催日時は、3名の合意の下に2ヶ月程度先までの予定設定を行うのですが、急を要する事態が起きる事もあり、日程遵守には苦労をしています。
 委員会開催に備えて、基本的には前の週に事務局が整理した通報に関する資料を受領して週末にそれを読み込む事になりますが、通報内容が、いじめやパワーハラスメント、職員の職務専念義務違反、個人情報保護違反、不適正な交通手段使用、不適正資金、入札と談合、契約の分割等々、様々な事案が持ち込まれ、時には裁判関係の資料もあり、先ずその内容の把握に苦労しています。特に司法関係になると予備知識が無い為数回の読み直しが必要となり、他の二人の法のエキスパートである委員には、業務の質は兎も角として委員としては時間的には私が一番働いている事を訴えています。
 通報には顕名(名前を明らかにした)と匿名が有りますが、顕名通報には調査結果通知が必要であり、調査実施に際しては、通報者の特定が出来ぬよう通報者の保護を図る事は勿論、被通報者の保護も、通報が通報者の思い込み、誹謗中傷の類いの可能性もある処から、極めて慎重に進める必要があります。
 又調査対象が相当古い案件、物的証拠が存在せず専ら関係者に対する聴聞に頼らざるを得ない等、委員会の調査そのものが強制力を有していない所から、調査には自ずから限界も在ります。
 加えて、通報案件が訴訟中に関係するケースもあり、委員会の結論が原告・被告双方に影響を与えない様にする工夫が必要である等、通報受領から委員会の結論到達までにかなりの時間を要しています。
 現地調査は原則として、本庁を中心とした公正職務担当の方々が当たりますが、時には委員自らも現地調査も行います。港湾局所有の賃貸土地が、契約条件に違反してまた貸しされているとの通報に際しては、実際の利用者の確認の為実査を行う等、通常の会計監査人とは異なるタイプの調査も実施しています。
 市長への勧告に際しては、本庁に常駐しているプレスへの説明を行う事にしています。幸いにも委員長の辻弁護士の過去の活動履歴からの委員会への期待、行政当局の問題点への取り組み姿勢等が評価されている為か、勧告内容については、NHK及び他の民間テレビ局による放映、又、多くの日刊紙が記事として取り上げて広く市民に伝えられていますので、市の行政改革推進にはある程度貢献しているものと考えています。
 委員会発足時には、辻氏を委員に選ぶ事には、市長を初め議員の中にもある種の危惧が有ったと聞き及んでいます。昨日まで外からオンブズマンを率いて市政改革を声高に唱えた者を委員に選任するのは、“獅子身中の虫”を市は取り込んだ、又ある市民団体からは“裏切り者”と呼ばれたやに聞いていますが、ご本人は行政の改革は内外に関らず可能であり、中からの改革はより容易であるとの信念から、その様な批判を意に介していないようです。
 又一部には、コンプライアンス委員に権限を与えすぎ(市長からの委嘱でありながら市長にものを申す、市職員を指揮した絶対的調査権が与えられている。)の批評があると聞き及んでいます。従って委員の共通認識として、委員会は調査権および司法権を併せ持っている“平成の長谷川平蔵”になるまいと心掛けています。時には違反行為に対して如何なる処分をすべきかの意見を求められるケースがありますが、基本的スタンスとしては、行政の裁量については、委員会の職務の範囲外の姿勢を保っています。
 委員の任期も当初は4年としていたものを、ある議員の反対で2年に短縮、再任も一回のみと条例に手が加えられましたが、最近では議員から重任を含めて4年は短いのではとの声が上がっているとの事ですが、私としては、任期延長は精神的・肉体的負担が重過ぎますので、無いことを願っています。
 
3 不適正資金問題と公認会計士の活躍
  昨年4月に大阪市住吉区に端を発した不適正資金(所謂裏金)についての通報については、市当局全体に関係する大変重要な問題であるとの認識、および委員会としては同時に他の多数の案件を処理中である状況に鑑み、当該課題については、特別委員会の設置を行い迅速に対応すべきとの結論に基づき、委員として近畿会の元会長の大西寛文氏を推薦させて頂きました。同委員会は、精力的に短期間の間に全庁調査の実施、市の受けた損害推定額の算定およびその額の返還を退職者を含めた全市の職員に求めた事は、市の行政に対する市民の信頼の繋ぎ止めに大きな貢献をしたものと理解しています。突然に降って湧いたこのような難題に対して、業務ご多忙中にも関らず快くお引き受け頂いた大西先生には大変感謝致しております。大西先生のご活躍は平松市長の認める処となり、当該問題解決後においても引き続きある種の委員会の委員に市長から就任要請が有るやに聞き及んでいます。私の持論である、公認会計士は大企業のみの監査業務を行うだけではなく、広く市民社会においても大きな貢献が出来る事を実証し、それが行政の長に大きく評価された事は、私たち会計士にとっても大変有意義な出来事と理解しています。
 
4 コンプライアンス委員活動を通じて得たもの

 過去監査業務等を通じて企業法務の弁護士の方々とは折々のお付き合いが有りましたが、市民の立場に立っての市民派弁護士の方と深く関り合いを持った事は、私の人生感を含めて大きな財産に為りました。過去専ら会計という狭い分野にて数値の世界にて永年過ごした者にとっては、経済合理性を排除し、市民の為、体を張って奮闘する両弁護士の姿は、新鮮且つ大きな驚きであり、その様な方々と3年有余共に過ごせた自分は大変幸せ者と思っています。この様な機会を与えて頂いた中務会長、この様に会計士を世間に認知させる機会を作られた佐伯前会長の働きのお陰と感謝しております。
 私のコンプライアンス委員としての任期は来年3月迄ですので、それまでは勿論全力投球を続行しますが、そろそろ次の委員への引継ぎの助走期間に入ったものと考えています。当該制度は、これからも永続的に活動が期待されていますので、当該領域にご興味をお持ちの方は是非積極的に手を挙げて頂きたいと思います。
 現在の業務の進め方、市当局の委員への報酬のあり方、本庁は兎も角として第一線に配属されている公正職務担当者の積極的活用等、目的達成の為の改善余地は多く有りますので、次の委員に対する期待は大きいものと思っております。
 拙文を最後までお読み頂き有り難く存じます。