報告

第239回 企業財務研究会報告

京滋会 監査・会計委員長 水野訓康

 
 平成22年4月9日(金)午前10時より12時まで、近畿財務局8階大会議室において、第239回企業財務研究会が開催された。
出席者  近畿財務局 秋田理財第1課長  他10名
  近畿会   中務会長      他5名
  兵庫会   中津会長      他3名
  京滋会   長谷川会長     他6名
研究報告の
テーマ 
「収益認識基準−開示事例分析及びIFRSとの相違並びに今後の動向−」
発表者
(京滋会)
深井和巳(副会長)、水野訓康(監査・会計委員長)
岩淵貴史、今井康好、川崎覚史、田中正志(監査・会計副委員長)
 
T.テーマ選定の背景
 日本の会計慣行における収益認識については、実現主義及びその解釈として(1)財貨の移転又は役務の提供の完了(2)対価の成立の2要件を充足することとされてきた。
 しかし、これらの基準は極めて基本的なことを定めているのみで、具体的な適用に当たってはかなり幅をもって解釈されてきた実態があるのではないかと思われる。
 このような状況下において、日本では今般、IFRSとのコンバージェンスが急ピッチで進められ、さらに平成27年又は平成28年からのアドプションが予想されているが、日本では収益認識に関する包括的な会計基準が存在しないこともあり、IFRS導入により実務がどのように影響を受けるのかが大きな関心となっている。
 これらの状況を踏まえて、現在の有価証券報告書において収益認識についてどのような開示が行われているのかをまず把握し、次に、日本の実現主義とIFRSにおける収益認識の基準との比較を行った日本公認会計士協会会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告−IAS第18号「収益」に照らした考察−」を概観した。
 さらに、現在、IASBとFASBは、平成23年上半期中に新たな収益認識基準を公表することを目途として、現行の収益認識基準に関する会計基準の見直しを進めており、平成20年12月には、その見直しの方向性に関する提案をディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」(以下、DPとする。)として公表している。
 今後、我が国においても収益認識に関する会計基準の見直しの整備が進められていくことになるが、その一環として、DPの議論を踏まえ企業会計基準委員会から「収益認識に関する論点の整理」(平成21年9月8日)が公表されたため、この内容も概観することとした。
 また、最近のIASB、IASBとFASBの合同会議における議論の状況、ASBJにおける議論の状況等についてもフォローアップを試みた。
 
U.有価証券報告書における収益認識に関する開示分析
1.調査方法
  (1) IFRSを適用している有価証券報告書提出会社(外国法人)を対象にした分析
    (ア)調査範囲
    平成21年2月末現在における「EDINET」より、「外国法人・組合」、「有価証券報告書」の2つの条件で検索した結果抽出された211社のうち、IFRS適用企業61社を対象とした。
    (イ)検索方法(対象会社)
    @ 会計方針の注記
    上記61社の直近の有価証券報告書における「会計方針」の注記において、収益の認識基準を記載している会社を対象とした。
    A 日本基準との相違に関する注記
    上記61社の直近の有価証券報告書における「採用する会計処理原則及び手続きのうち、本邦(日本基準)における会計処理の原則及び手続と異なるもの」の注記において、収益の認識基準に関する記載をしている会社を対象とした。
  (2) 日本基準を適用している有価証券報告書提出会社を対象にした分析
    (ア)調査範囲
    「JICPA Database」の「有価証券報告書検索システム(eSPERサーチ)」にて、「日本基準」適用企業を対象として検索した。
    (イ)検索方法
    @ 会計方針の注記
平成20年12月31日以降1年間を決算日とする会社の会計方針の注記で、キーワード「収益及び費用の計上基準」を含み、「リース」・「工事」のキーワードを含まない会社を検索した。
    A 会計方針の変更または追加情報の注記
平成15年1月1日から平成21年12月31日までの決算日を対象に「連結財務諸表作成の基本となる重要な事項の変更」又は「追加情報」において、キーワード「収益及び費用の計上基準」で検索した。
 
2.分析結果
(1)分析対象会社数
区分 対象 社数
IFRS適用会社(外国企業)  会計方針の注記  61
日本基準との相違に関する注記 15
日本基準適用会社(内国企業)  会計方針の注記 51
会計方針の変更または追加情報の注記 36
 
(2) IFRS適用企業における会計方針の注記分析結果
   有価証券報告書提出企業の中でIFRS適用企業(外国法人)と日本基準適用企業とを比較した場合、IFRS適用企業の方が開示量は膨大な量となっている。また、IFRS適用企業61社は会社ごとに差はあるものの全ての会社が何かしらの収益認識に関する事項を会計方針として記載している一方、日本基準適用企業は251社にとどまっている。
なお、IFRS適用企業の国(地域)別分類ではEUが圧倒的に多くなっており、次いで中国となっており、業種では金融業が圧倒的に多くなっている。
   
(3) IFRS適用企業における日本基準との相違に関する注記分析結果
   研究報告第13号では実現主義の考え方とIAS18号が定める収益認識の要件との間には本質的な相違はないとしているが、実際の開示では収益の認識において差異が開示されている。
   
(4) 日本基準適用企業における会計方針の注記分析結果
   日本基準適用企業における収益に関する会計方針の記載はIFRS適用企業に比べ限定的な状況である。
開示企業と同種の事業を行っている会社でも開示をしていない企業があることが推察され、各社の開示姿勢によりばらつきが出ている。企業会計原則(同注解)「代替的な会計基準が認められていない場合」、財務諸表等規則(同ガイドライン)「業界特有の収益及び費用の計上基準」にどこまで該当するかの判断にばらつきが出ているのではないかと考える。
   
(5) 日本基準適用企業における会計方針の変更または追加情報の注記分析結果
   これまで、日本において収益認識に関する明確な基準は存在しておらず、実務における実現主義の解釈には少なからずばらつきがあると考えられる。
 
 
V. 「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)−IAS第18号「収益」に照らした考察−」(日本公認会計士協会会計制度委員会研究報告第13号)の概要
 研究報告の以下の各項目に従って、研究報告を概観した。
当該研究報告は、実現主議が拡大解釈されている実務があるのではないかとの懸念を基に、実現主義を厳格に解釈した場合のあるべき考え方を示すことにより、より一歩進んだ会計処理の適用を促すことが、当該研究報告公表の目的ではないかと思われる。
また、処理の変更に当たって、当該研究報告の公表を契機とすることも期待されているのではないかと思われる。
 
1.公表の経緯
(1)我が国における収益認識に係る会計基準
(2)実現主義の下での収益認識要件
(3)最近公表された収益認識に関する個別の会計基準
(4)本研究報告の目的
2.本研究報告の位置付け
3.本研究報告の構成(1)総論
(2)付録
4.本研究報告の要点
(1)我が国の実現主義とIAS18「収益」との比較
(2)収益の表示方法(総額主義と純額主義)
(3)収益の測定
(4)取引の識別(複合取引)
(5)物品の販売
(6)役務の提供
(7)企業資産の第三者の利用
(8)契約内容(権利義務関係)の明確化とそれに応じた会計処理
(9)収益の認識基準に関する開示
 
W. 「収益認識に関する論点の整理」(2009年9月8日企業会計基準委員会)の概要
 「論点整理」はIASB及びFASBから公表されたDPを契機として、これまでの検討を整理し、今後の収益認識のあり方を考える際に対象となる論点について、広く一般から意見を求めることを目的として公表されたものである。当該「論点整理」について、以下の項目に従って内容を概観した。
1.提案モデルによる収益認識の仕組み
(1)契約に基づく収益認識原則
(2)履行義務の定義と識別
(3)履行義務の充足
(4)履行義務の測定
2.提案モデルの特徴と現行実務への影響の可能性
 (1)総論
(2)各論
 
X. 収益認識基準を取り巻く最近の動向及び今後の展開について
 現在、IASB会議及びIASBとFASBの合同会議において収益認識にかかる新たな会計基準の検討が行われているとともに、日本においてもASBJにおいて収益認識基準の設定の議論が行われている。
 これら各種会議の議事録を閲覧することにより、議論の方向性を概観した。
1. IASB会議及びIASBとFASBとの合同会議における最近(2009年以降)の収益認識プロジェクトの討議内容について
2. ASBJ収益認識専門委員会における最近の討議内容について
(1) ASBJ収益認識専門委員会における最近(2009年以降)の議題内容
(2)  ASBJ収益認識専門委員会における具体的な検討状況(企業会計基準委員会議事要旨より抜粋)
3. 収益認識基準をめぐる今後の展開について
 
 
Y.まとめ
 有価証券報告書における国内企業の収益認識に係る開示は、事例分析のとおり、若干の例を除いてほとんど行われていない状況であるが、各企業においては、将来、収益認識に係る開示が不可避となることを前提として、開示に耐えられるような基準を採用しているかどうか、実現主義を厳格に解釈した場合の取り扱いから逸脱した処理基準を採用していないかを今一度点検する必要があるものと考える。