寄稿

翔る!ニッポンの公認会計士
〜ロンドン編 第5回

勢志恭一

 海外で仕事がしてみたい!−会計士試験に合格した当初は夢にも思わなかった海外赴任を始めて早9ヶ月が過ぎようとしています。こちらでは監査部門に所属して監査業務に従事すると共に、当地に進出されているクライアントの皆さんの現地サポート業務等を行っています。
まだまだ短い経験ではありますが、日本との違いを中心にこちらでの生活をお伝えできればと思います。
 
毎日が歓送迎会?
 こちらに来てまず初めに驚いたことは、人の入れ替わりがとても激しいということでした。英国では仕事をしながら試験勉強をし、所定の試験に全て合格すると晴れて「会計士」となるのですが、Assistant
Manager(日本でいう“シニア”に相当します)に
なって2−3年もすれば転職市場が開けてきます。“○○(有名上場会社)の△△(ポジション)に挑戦します!”といったメールが頻繁に流れてくるようになり、あっさりと職を変えていく姿は驚きです。日本では会計事務所というと監査のプロフェッショナル集団というイメージがあると思われますが、こちらでは会計事務所勤務を経て一般企業のAccounting ManagerやCFOへとキャリアアップしていく場合が多いため、会計の素養を有するエリート(?)ビジネスマンの養成組織といった役割もあるように感じます。
 また会計事務所内の人材交流も盛んで、私の周りでは、欧州のみならず、欧米、アジアや中東からもほぼ毎月新入部員が入ってくると共に、他事務所の駐在員として旅立っていきます(都度名前を覚えるのが大変です!)。
 ちなみに、こちらでは送別会は誰かに開いてもらうものではなく、日時、場所から招待者まで自分で企画し、自費で開催します。パブやクラブといった場所で、色々な思い出を振り返りながらゆっくりとした時間を過ごします。
 
毎日がノー残業デー?
 私の所属している事務所は朝9時半から夕方5時半が定時ですが、終業時間を過ぎると繁忙期であっても仕事をしている人は極端に減ります(特に冬場の日が短い時は、就業時間後すぐの時間帯であっても事務所が暗闇に包まれてしーんとすることがあり、日本で深夜、終電を逃してしまったかのような感覚に襲われることがあります)。逆に朝は比較的早く、人によっては早朝から出勤し、午後4時頃には颯爽と帰っていく姿も見られます。日本ではなかなかさっと定時に切り上げることは難しい場合がありますが、こちらでは仕事さえ終えれば(金曜日にいたっては仕事を終えていなくても?)帰るほうが自然なようです。
 ただ、ローカルスタッフの名誉のために付け加えますと、“重要”な仕事は当然残業をし、また週末も仕事をしています。日本とは、期待されるクオリティの定義が異なっているように思い、そのメリハリのよさは学ぶべき点が沢山あります。
 
毎日がサプライズ?
 ロンドンといえば世界最初の地下鉄(こちらではそのトンネルの形状に由来して“Tube”と呼ばれています)で有名ですが、日本の地下鉄に慣れてしまうととんでもない目に遭うことがあります。昨年だけでも複数回のストライキがあり、その度、1日半にわたってほぼ全線が止まってしまいました(バスに群がる人々をご想像下さい)。また、信号故障、車両故障、果てには何の理由もアナウンスされることなく、突然の停車や乗換えを強いられます。重要なミーティングがある際は、目的地に無事到着するまで気が抜けません。
 最初はイライラするのですが、不思議なもので、これが当たり前になってくると段々慣れてくると共に、日本のサービスの素晴らしさを改めて感じさせられます。
 
毎日がスペシャル!
 もちろん、いい点もあります。ロンドンといえば、「When a man is tired of London, he is tired of life.(ロンドンに飽きたものは人生に飽きたもの)」というフレーズがあることをご存じの皆様も多いとは思いますが、こちらで生活しているとまさにこれが実感されます。コンサート、ミュージカルからフットボール、テニス、ラグビー、ゴルフといったスポーツまで、最高水準のイベントがほんの身近なところで開催されており、日本だと“とっておき”の機会にかなり気軽に触れることができます。
 またロンドンには大小問わず多数の美術館、博物館があり、またその大半が無料(寄付制)で一般公開されています。昔習った教科書に載っていたような絵画や世界の財宝が惜しげもなく展示されている姿を見ると、その敷居の低さに触発され、少しくらいは勉強し直してみようという気にさせられます。そうなるとしめたもので、ごくごく自然に西洋の歴史や宗教といった異文化に入っていくことが出来ます。これはまた、知らず知らずの内にどっぷりと浸かっていた東洋の文化を見直す良い機会にもなっています。
 
最後に
 言語やワークスタイルの壁に加え会計基準や監査慣行も異なる英国で仕事を進めていくには、日々色々な困難に直面しますが、それはそのまま日本における経験を振り返る良い機会になっています。日本では特に他社動向が意識されることが少なくないように感じられますが、こちらではまずクライアント(経営者)の主張が前提となり、これを監査人が監査責任者のリーダーシップの下に検討し、望ましいディスクロージャーに繋げていくという姿勢がより強く感じられます。
 私にとっては未だ毎日が夢のように過ぎていっていますが、日本に帰任してその夢が醒めたとき、それを現実のものとして持ち帰ることが出来るよう、充実した日々を過ごしていきたいと思っています。