寄稿

翔る!ニッポンの公認会計士〜オランダ編

第8回 西川 有美

 
 社会人経験=監査法人勤務年数=5年。何もかもにおいて未熟者でありながら、海外で働いてみたいという想いからチャンスをいただき、オランダに渡り早16ヶ月。残す赴任期間もあとわずか6ヶ月。日本の監査法人からはまだまだ赴任者が少ないことを考えると、海外駐在員といえば、一人でなんでも仕事をこなし、コミュニケーション能力が高く、更なる飛躍を期待され、時には家族のリクエストに応えて赴任、といったイメージもあるかもしれません。そんなイメージとはかけ離れた私の赴任経験を御紹介することで、海外で働くことにより多くの人に興味を持っていただけたらと思い、筆をとりました。
 私の仕事は、監査現場のインチャージとして現地スタッフと一緒に働くこと。すなわち、日系企業の全般的サポートを行っている“駐在員”とは少し立場が違うことを付け加えておきます。
 
オランダという国
 イメージするのは、風車とチューリップ、あるいは飾り窓とマリファナでしょうか。実はチーズが有名だったり(ゴーダチーズの「ゴーダ」はオランダの一都市です)、有名な画家を数多く輩出していたり(誰でも知っているゴッホも、以前テレビ広告に使われていた「真珠の耳飾の少女」を描いたフェルメールも)、平均身長が世界一だったり(男性の平均身長は180cm)、国土の1/4が海面より低かったり(オランダで一番高い山はたった320メートル程度)、といろいろと特長のあるオランダですが、国土面積、人口ともに九州のみと同じくらい、約42,000ku、1,600万人くらいの小さな国です。大阪府の人口が900万人弱であることを考えると、本当に小さな国です。
 
文化、国民性
 モロッコ・トルコ系の移民や、オランダ植民地であったインドネシア・南米スリナムからの移民も多く、人種差別の少ない国だといわれています。また海外企業の誘致を積極的に行っているとのことで、私の働いている事務所においては外国人の駐在員も多く、ひどい差別を感じることはあまりありません。あくまで私の個人的印象ですが、オランダ人は自己主張が強く、恥ずかしいという感情を持っていません。とにかく声が大きく、明るく、陽気で人生を楽しんでいるし、人をからかうのも、からかわれるのも、間違いを指摘する方も、指摘された方も堂々としたもので、とにかくあっけらかんとしています。
 言語はオランダ語ですが、これはゲルマン語であり英語、ドイツ語のちょうど間のような言語です。そういった言語特性に加え、首都アムステルダムには外国人が多く住んでいるからか、オランダ人は英語が達者です。この言語力が外国人が多く住みやすい環境を助けていることは間違いないでしょう。
 
オランダ人の働き方
 1日8時間の勤務、またチームで往査をする場合にはクライアントに出勤するといった最低限のルールを除いては、業務スタイルは至って自由で、オフィスにて残業するという習慣はほぼありません。子どもを学校へ送迎するための遅刻・早退はもちろん、宅配便を受け取るための早退、渋滞を避けるための早退など、かなりフレキシブルで、実質的に毎日2時間程度は在宅勤務となっている人も多くいるのではないかと感じるほどです。それもそのはず、銀行等の営業は9時〜16時、日曜日は閉行ですし、住宅設備の修理等で家に居なければならない場合も平日「午前中」か「13時〜17時」かのいずれか、というざっくりとした時間指定しかできません。共働きの家庭も多いので、ある程度のフレキシビリティがなければ生活が成り立たないのです。休暇についても、権利として守られており、子どものワクチン摂取の日は休暇、小学校の休みに合わせて休暇、駐在員は家族の訪問に合わせて休暇(私も満喫しました)、など、それぞれの人がニーズに合わせた休暇を取得します。さらに夏休みは数週間の休暇を半年以上前から計画し、しっかりリフレッシュします。日本と比べ祝日が少ない分有給休暇日数が多く、さらに残業をした場合に休暇により消化することでかなりの休暇を自由な日程で取得することができるのです。
 
休暇の過ごし方
 このように守られた休暇、多くの人が陸続きの利点を生かして、隣国ドイツ、ベルギーはもちろん、フランス、イタリア、スペインなどにもキャンピングカーに自転車を積んで出かけていきます。“ケチ”と称されるオランダ人は、「水まで買い込んで(旅行先でお金を使わない)ヨーロッパ各地に旅行にでる」と揶揄されることがありますが、家族との時間を大切に過ごすのが一般的なようです。
 私自身はドイツやベルギーに日帰り旅行をしたり、スキポール空港の便の良さを利用して、北欧や東欧に週末旅行に出かけたり、とさまざまな国を旅行しました。ニュージーランド出身の同僚は「ニュージーランドから飛行機に1時間乗ったって、まだニュージーランドなんだよ」と笑っていますが、日本からも少々飛行機に乗ったからといって、そう簡単に他国に入ることはできません。このような地理的側面も、オランダをヨーロッパの中でも一際国際色豊かな国にしているのでしょう。
 
違いを感じるということ
 このような日本とは全く違った環境で働いてみるといろいろな発見があります。仕事でも仕事以外でも、現地スタッフの発言に一喜一憂したり、何気ない習慣に戸惑ったり驚いたりします。もちろん、日本で働いていても人にはそれぞれ個性があるし、それぞれのやり方がありますから戸惑うこともあります。しかし、オランダで働いていると、自分の想定の範囲を超えた場面に遭遇する率がかなり上がります。すぐ適応できる人もいれば時間がかかる人もいるでしょう。楽しむことができる人もいればストレスを感じる人もいるでしょう。誰とでも親しくなれる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。他にもいろいろあると思います。
 それでも、新しい文化や習慣、物事の考え方に出会うことで、今まで意識していなかった自分に気が付いたり、そのことについて深く考えたりします。見た目も考え方も習慣も文化も全然違う、そんな人達と時には議論し、時には相談し、お互い分かり合えるときがある。新しい考え方に共感したとき、自分の考え方に少し幅ができる。あるいは彼らとぶつかることで、自分の考え方に共感してくれる旧友のありがたみに改めて気がついたりする。多かれ少なかれ、そんな機会が増えること、それが海外赴任の大きな魅力の一つではないでしょうか