寄稿

家庭菜園の勧め

第46回 リレー随筆
瀧元 一

 
 3年前、賃貸マンションから庭付きの一戸建てに引っ越しました。妻は以前からの願望だった家庭菜園を始めました。まず、土を作るところから始めます。
 生ごみ処理機を購入し、魚の骨や野菜・果実の皮やヘタを入れて夜中に機械を動かします。これがなかなかの優れもので、本当に形あるものが粉々になっていくのです。一見、食物だったと分からないほど茶色の粉になります。ただ、如何にも有機肥料というような臭いはしますが、これを土と混ぜると臭いも和らぎ、そのうち土と一体化していきます。
 この機械を使い始めて知ったのですが、普段家庭用ゴミで捨てていたゴミの中で生ごみというのはかなりの量を占めていたのです。生ごみ処理機を使うと家庭用ゴミは減るし、生ごみは肥料として生まれ変わるし、一石二鳥です。
 少し早いかなと思っていましたが、待てない妻は半年くらいで野菜の苗を植えました。大根・人参・白菜。さて大きくなるかと楽しみにしていると、どんどん葉が無くなっていくではありませんか。そうです。妻はここで初心者にありがちなミスをしました。害虫対策を全くしていなかったのです。葉はみるみる無くなって、やがて全てなくなってしまいました。残念ながら、第一回目は大失敗に終わりました。
 気を取り直して翌年夏野菜の苗を植えました。キュウリ・プチトマト・枝豆。夏野菜の王道ですね。今回はそれなりに少しの収穫ができました。育てやすいのでしょう。特に枝豆はほっておいてもどんどん大きくなり実を沢山つけてくれました。豆は強いんですね。ビールのつまみに丁度良いです。来年もとリクエストしました。
 秋、大根・人参・白菜に再挑戦。更にブロッコリー・キャベツと欲張って植えていました。寒い時期には虫はつきませんが、早春、やや暖かくなってくると虫がつき始めました。害虫対策は米のとぎ汁をスプレーします。これは少しは効き目があったのか、虫は少なくなったようです。でも、油断するとすぐに虫がつきます。野菜を育てているのか、虫を飼育しているのか分からなくなるくらいです。今でも特に気にも留めていなかったモンシロチョウが憎らしく思えたりもしました。ところが、子供たちにとってはモンシロチョウの幼虫・さなぎ・成虫の観察ができたのです。それはそれで良かったのだなと思いました。
 収穫した野菜は小さいですが、味は充実していて美味しいです。野菜そのものの味がするのです。
 いつ植えたのか、ジャガイモもゴロゴロ、苺も赤い可愛らしい実をぶら下げていて、それを見ると嬉しくなります。妻の農作業も板についてきました。毎朝庭に行っては「今日の収穫」を少しずつ採ってきます。それを嬉しそうに写真に撮っている姿はまるで子供の様です。土を触っていると人間が本来持っている野生の本能が人間としてのあるべき心と身体を目覚めさせてくれるのではないでしょうか。ここまでくるともう家庭菜園の虜です。
 ハプニングもありました。見たことのない葉がスイカに紛れているのです。その葉はスイカのようでスイカではない。かぼちゃの様でかぼちゃではない。花は白色、咲く時間帯は午後から夕方。ほとんどの野菜は朝咲くのですが、これは夕方に咲くのです。気づいたら萎んでしまっているので、人工授粉ができない。やたらとツタが伸びて大きな態度をとっている割には実をつけてくれないので、諦めて抜いてしまおうと思っていたところ、一つ実をつけていました。でも見たことのない実です。ネットで調べてみるとありました。夕顔、かんぴょうです。こんな事もあるのですね。スイカ一苗でスイカとかんぴょう二つの美味しさ。とはいえ、かんぴょうなんて加工済みのものしか知りません。ネットで調理方法を検索しました。半分はぶつ切りにして、和風だし汁で煮てみると柔らかくてまるで冬瓜の様でした。もう半分は細く切り天日干しにしました。これにベーコン・コンソメを入れて洋風スープに仕上げました。これもなかなかいけました。
 今年の夏、妻の実父が寝たきりになり、1ヶ月程の間、一緒に暮らしました。寝たきりになると楽しみは食べることのみになってしまいます。そんな時には家で採れたかぼちゃ・トマト・スイカ等、「家で採れたんだよ。」と話しながら食べさせていると、「美味しい、美味しい」と嬉しそうな顔をしてくれます。それは我々としても苦労して作った甲斐があるもんです。喜んで食べてくれる人がいてこその家庭菜園ですね。