特集

第5回
奮闘する“企業内会計士”

「試験合格者が監査を経験せず企業内で働くということ」

浅井 俊博

 
執筆の経緯
 2009年度合格、準会員の浅井と申します。いろいろあって47歳から勉強を始め、49歳の時に合格、現在、京都市北区金閣寺の近くに所在する株式会社フジックスに勤務しています(「いろいろあって」の部分は、書き出すと紙面がいくらあっても足りませんので、ご対面の機会があればその折にでも)。
 今回の執筆については、近畿会就業多様化委員会の企業内会計士NW小委員会への参加のご縁で、清水委員長からご依頼をいただきました。資格取得前につき厳密には企業内「試験合格者」にて役不足では、と考えたのですが、監査をせず直接一般事業会社にお世話になった試験合格者の経験談が、同じキャリア・パスを歩む試験合格者の皆さんに少しでも参考になればと考えお引き受けしました。試験合格者でも意外に役に立つもんだな、などと感じたこの2年間の自分なりの奮闘を筆に任せて綴ってみたいと思います。
 
誠実
 株式会社フジックスは日本で唯一の縫い糸専業メーカーで、「誠実」を社是とする創業90年を数える老舗企業です。自己資本比率約80%(連結ベース)に代表される堅実さと、早い段階で中国に生産拠点を設けるなどの積極性を兼ね備え、1996年から大証2部に上場、国内に子会社3社(製造1社・販売2社)、中国に子会社4社(製造1社・販売3社)、合計7社の連結子会社と、タイにJVを1社展開しています。
 製品ラインは、工業用ミシン糸から刺しゅう糸、パッチワーク用の手づくりホビー糸に至るまで縫い糸なら殆ど何でも揃います。特に、家庭用縫い糸の日本国内シェアは60%を超えていますので、ご自宅の裁縫箱の中に「シャッペスパン」「レジロン」などのフジックス・ブランドを見つけていただけるかもしれません。加えて、品質についてもユーザーから信頼の評価をいただけています。その品質の確かさの証明として「はやぶさ」地球帰還時のパラシュートの縫製に「キング・ポリエステル」が使用されたこと、また、ヤンキース時代のゴジラこと松井秀喜選手のグラブに「キングスター」刺しゅう糸が使用されていたことは、私たち社員の誇りとなっています。
 
不思議なスキル
 入社は一昨年2010年の2月、管理部財務課に配属していただきました。47歳まで20数年間、全く会計と関係の無い営業畑の仕事をしていましたので、その時点では会計の実務経験は全くゼロ。会計に関する知識は試験合格者レベルとしては有しているつもりではあったものの、年甲斐もなく不安いっぱいの状態でした。
 最初の仕事は四半期報告書のチェック。財務諸表を作ったことのない人間が、入社初日から法定開示書類のチェックに駆り出されてしまいました。会計実務未経験者に、財務諸表や注記のチェックなどできるものなのだろうかと不安げに始めてみたのですが、豈に図らんや意外にスラスラと。不思議なスキルというか特技と申しますか、できあがっている財務諸表のチェックは、記載例と会計監査六法の助けを借りてではありましたが、何とかこなすことができました。たぶん受験時代に財務諸表を読み込むタイプの問題ばかりを解かされていた影響かと。これはおそらく大きな武器なんだろう、と不安感も少し和らぎました。
 
思わぬ活躍分野
 次にいただいたのは、会計と法務と税務の三者が交わる領域の仕事でした。会計処理が会社法と税法に制約を受けるうえに、さらに連結処理が加わって、また、会社法の手続きもあってと、たいへんややこしいものでした。ところが、税務関係は税理士の資格を有する直属の課長のお手を煩わせながら俄か勉強で凌がざるを得なかったものの、会社法関係については受験時代の企業法の勉強が役に立ち、また、会計処理の実務指針が無いところはインターネットを検索しまくるなどで、これも何とか無事乗り切ることができました。会計と法務と税務の三者が交わるような領域では、自分が思っている以上に活躍できそうだ、と少しばかり自信もついて、坂の上に雲が少し見えて。
 
「正職員として、かつ、本務として直接担当していたこと」
 その後は、財務課のメンバーにいろいろとお世話になりながら、主に連結財務書類作成業務を担当しています。
 具体的には、業務補助等報告書の記載例の表現を拝借しますと、四半期決算をベースに、各勘定の訂正振替、引当金の計上、棚卸資産の評価損や固定資産の減損損失の計上検討等の決算整理を行い、また、単体財務諸表の確定後、子会社財務諸表・連結パッケージを基に、連結消去仕訳を入力、連結財務諸表を作成し、さらに、売上高・売上原価・販管費・営業外損益等の内容を精査し、前年実績や予算と比較することで異常値の有無・発生原因を確認・分析し、四半期決算分析資料を作成する、という感じです。
 海外子会社を含む子会社7社、関連会社1社の規模の連結決算は、外貨換算あり、持分法あり、新会計基準の導入ありと、幸運にも試験合格者には程良く高度なレベルで、たいへん良い勉強をさせていただいています。年2回の上海子会社3社への財務監査に同行し、異なる会計慣習に接することも良い経験となっています。
 決算処理後の有価証券報告書、四半期報告書、短信などの開示業務も担当しています。開示業務では、新しい会計基準がやってきて他社の開示事例が未だ存在しない場合が勝負どころです。火事場の底力であの分厚い会計監査六法と一晩二晩格闘して趣旨を考えて開示文案を練りました。記載例にないオリジナルの文面が有価証券報告書に載ったときはやや感動でした。
 会計基準に規定がない会社固有の事例については、趣旨からすると、こうではないですか、いやああでしょう、と監査法人の先生方にご迷惑をかけながら対処しています。会社の事情に即した会計処理の理論武装係、などというポジションが存在するならば、適任なのかもしれません。
 そのほか、スポット的に、取締役会・経営会議の意思決定資料の作成業務や、製品原価の分析の仕事をいただいたときに、受験時代にはいちばん苦手であった管理会計や原価計算の知識が役に立ち、その意外さが印象に残っています。
 
監査未経験の企業内会計士が公認されること
 まあ、ざっとこんな具合で、あっという間の2年間でありました。仕事に慣れてきたのか、最近は開示ミスをやらかしたり、まだまだ一人前には程遠いですが、これまでの実務経験と歳相応の視点から自らの仕事ぶりを客観視してみますと、監査未経験の試験合格者でも結構使える、というのが感想です。これから監査を経験されずに直接一般事業会社等に進まれる皆さんも相応の自信を持って新しい舞台に臨まれても大丈夫であろうと思います。
 最後に今後の課題を認めて、滑り気味の筆を擱かせていただきます。おかげさまでこの1月末で実務従事期間が2年となりました。このあとは修了考査へ向けて頑張っていくわけですが、無事要件を満たし公認会計士の資格を取得できた場合には、私は監査の経験なしに「公認」されることになります。このことが少しばかり気に懸かっています。形式だけはなく、実質として「公認」に値するものが自らに備わっているのだろうか、と。
 今後監査を経験しない企業内会計士が増加することが予想されます。皆多少なりとも同じことを考えるかと思います。監査未経験の企業内会計士が「公認」される意義。この新しい価値観を創造し確立していくことが私を含め同じキャリア・パスを歩む者に課せられた課題であろう、と考えています。この課題を含めNW小委員会のメンバーの皆様を始め諸先輩の方々には今後もいろいろとアドバイスを乞うことになるかと存じます。この場を借りてよろしくご指導のほどお願い申し上げます。