特集

第2部 「自治体会計と監査」
パネルディスカッションの概要

近畿会 藤本 勝美


<パネリスト>   <コーディネーター>
小市 裕之氏(近畿会)、林  伸一氏(東海会)、
安久  彰氏(北陸会)、清水 涼子氏(兵庫会)
  藤本 勝美氏(近畿会)

1. はじめに
 パブリック関係に従事されている公認会計士の人数が少なく、自治体会計と監査の状況が必ずしも会員皆様方に周知されておりません。また、国の財政もさることながら自治体財政も悪化しており、財政の健全性についての「ものさし」、もしくは「財政状態」を把握するための公会計制度を再構築し、その透明性を担保するための監査制度が改革されようとしております。
 そのような情勢を踏まえ、公認会計士が自治体会計と監査の現状と問題点を把握し、その改革の基本と方向性についての問題を認識することに主眼をおいたディスカッションを行いました。
 
2. 官庁会計(収支会計・単式簿記会計)の問題点
 自治体会計は単年度予算の現金主義会計であることをご存知の方が多いようですが、何故単年度予算主義なのか、自治体の現金主義会計は一般の収支会計もしくはキャッシュフローとどのような違いがあるのかは理解されている方はそれほど多くないように思われます。そこで、安久会員が、現在敦賀市の代表監査委員を兼務されているご経験から、まず、自治体会計の特徴についての御説明をして頂きました。自治体では法律に基づき、予算と財源がセットされて、議会で承認を得ながら、動いていくのが自治体行政であることを説明されました。この点は、予算の設定が何ら法的制約もなく、自由である企業活動とは大きな違いです。
 ところで、私どもが熟知しておりますキャッシュフローとは異なる、自治体収支会計特有の不明瞭な手続きとして、代表的なものを挙げられました。
 第一点は、単年度の会計の収入不足分を翌年度の歳入を繰り上げて、当年度の収入として計上するという「繰上充用金」制度があることをご紹介して頂きました。
 第二点は、自治体では「債権」(未収金)及び「債務」(支出負担行為と呼ばれています)の認識を「調停」と呼ばれる手続を日常行っており、会計期間内に検収等に基づいて「調停」を行なって、調停後の未収金及び債務に基づく収入及び支出が決算期末後に実行された場合、これら収入および支出を当該決算期に計上するために、2ヶ月間(四月・五月)の「出納整理期間」と呼ばれる決算締めの猶予期間があることを説明して頂きました。
 第三点は、当該出納整理期間までに返済財源が確保され、返済されることが確実であれば、「一時借入金」は議会で承認された枠内で実行できる制度もご紹介して頂きました。
 そこで、「夕張市の財政破綻」は、上記の自治体収支会計特有の不明瞭な手続き(「繰上充用金」、「一時借入金」、「出納整理期間」)を利用して不適切な会計処理を繰り返して行なってきた経緯をご説明をして頂きました。複式簿記による貸借対照表を作成し、発生主義会計を採用することによる「出納整理期間」等を無くしておけば、夕張市のような不適切な会計処理は行われなかったと説明して頂きました。また、「官庁会計の問題点」の実務的な厄介な問題点として、金額的に非常に重要性のある固定資産情報が欠如しており、固定資産管理情報と会計システムとの関連性もない点もご説明して頂きました。その他、現状の自治体会計ではコスト情報がいたって不明瞭であることを解りやすく説明して頂きましたが、最後に、自治体は住民に対して説明責任を果たす上で、もっと明瞭な財務諸表・その他の会計等の情報開示することの重要性を強調されました。
3. 財務四表の問題点
 財務4表の内容と現状、今後の問題点につき、東海会の林会員からご発表して頂きました。貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書の四表の概要を説明して頂き、人口3万人以上のところであれば8割ぐらいが既に作成しており、結構作成状況は進んでいる実情を説明されました。また、財務4表の代表的な作成手法として、現在は「総務省基準モデル」、「総務省指揮改訂モデル」、「東京都方式」、「大阪方式」があり、その特徴をご説明して頂きましたが、その問題点として、総務省が各自治体で作成してくださいという指導レベルの段階であるので、現場では一体どの作成方法が制度化されるのか非常に困っている状況にあり、そのためにも作成基準を統一化していくことが必要になると説明されました。
 また、官庁会計に慣れ親しんでいる公務員の方に財務4表を説明してもなかなか伝わりにくく、自治体が財務4表を作成し始めて2、3年くらい経過しているところなので、財務4表の開示基準、監査体制も確立されていない点もご指摘されました。
 自治体の連結財務書類に至りましては、水道や病院またはそれ以外の地方3公社、一部事務組合、第3セクター等様々な団体が連結され、それらは公益企業会計基準、企業会計に準じた会計基準、官庁会計等ばらばらの会計基準が錯綜して作成されています。
 最後に、財務4表の作成基準、開示基準及び監査基準について確立されていない状況を改善して、今後の対応を行うためには、企業会計及び監査の担い手である公認会計士もしくは公認会計士協会が今後深く携わるべきであることを特に強調されました。
 
4. 自治体監査の諸問題
 包括外部監査、個別外部監査等の数多く経験をされている近畿会の小市会員から自治体監査の諸問題についてお話を頂きました。
 財務諸表監査は実務的にも長い歴史があり、理論的にも標準化されて体系立っていますが、自治体監査は、理論の下支えもなく、制度そのものが継ぎはぎ状態で、混乱気味の状況にあることをご説明されました。
 自治体監査機能の不明確さ、独立性と専門性について問題のある監査委員制度、現行の自治体外部監査制度の課題、自治体監査を担う人材育成の課題、自治体の監査基準が不明瞭等の現行の自治体監査はあまりにも数多くの問題があることを指摘されました。
 それでは、自治体監査制度の見直しの動向というと、政府は現行の監査制度・外部監査制度について、ゼロベースで見直そうとして、三つの見直し案を作成しました。ひとつ目の案は実現性に乏しいこと、二つ目の案はそれなりに公認会計士の活躍の場がありますが、三つ目の案は評価に値するとは言い難いものがあるようにご説明されました。最後に、今こそ、我々の業界がチャンスと捉えてプレゼンスを発揮することこそ、結果として住民に貢献できる機会であると述べられました。
5. 財務諸表の活用にかかわる問題
 最後に、清水会員から自治体の財務諸表の活用方法を述べて頂きました。
 東京都では、バランスシートを作成することにより、隠れ借金が判明し、その原因を追究することにより、一定の成果が得られた事例を紹介していただきました。マクロ的観点からは、減価償却率を利用することにより、施設の更新需要に備えて計画的に基金積立を行なったり、経年分析によって財政の持続可能性の強化に役立てたり、債権管理の適時の不能欠損処理に役立てる等の活用方法について説明されました。また、ミクロ分析の観点からコストの効率性・経済性について、または未利用地の利用・処分についての意思決定情報の活用に役立てていること、さらに、部局別のアニュアルレポートの活用例についてもご紹介して頂きました。大阪府では、多額に上る未収入金に対して不能欠損引当金を明らかにすることにより、債権強化に対する職員の意識改革に繋げていくことが進められており、自治体の減損会計も適用して、資産の有効活用に役立てていくことにより、職員の意識が関連する調整会議もしくは連絡会議を通じて少しづつ変わってきていると喜ばれておられました。しかしながら、一般企業と違い、新公会計制度を適用して、適時かつ適正な貸倒引当金あるいは減損会計の計上・開示をすれば、自治体では住民監査請求、首長の政治責任を問う等懸念事項もあるのではないかという不安も述べられておられました。最後に、清水会員も複式簿記の重要性、それに公認会計士の皆様方のノウハウを是非公会計の分野に活用して頂きたいと強調されました。
 
6. おわりに
 企業の会計及び監査制度と比較して、自治体のそれはあまりにも貧弱であり、未熟でもあり、まさに抜本的改正の時期にあります。その改正の担い手は会計及び監査の専門家である公認会計士であり、それらの経験と知識をもった業界は他にないのです。私ども公認会計士は、この自治体会計と監査の分野でも、最も社会に貢献できることを誰よりも自覚することが肝要と思われます。今回のパネリストの方々は最後に必ずそのことを付け加えてご発言しておられましたことが最も印象的であったように思います。
 最後になりましたが、今回の統一論題が盛況に終えられたことに感謝申し上げます。
 
「監査の品質管理のあり方について」(近畿会 若手会計士委員会メンバー)の発表内容は、 「第43回 中日本五会研究大会インデペンデンス」にて報告の予定であります。