特集

「環境問題と財務報告」
−H23/3期資産除去債務会計の開示分析−

近畿会 川原 尚子

 
1. はじめに
 企業の事業や財務に重要な影響を及ぼす可能性のある環境問題が財務報告でどのように説明されるかについて、近年、投資家等の関心が高まりつつある。本報告では、財務報告での環境情報の開示可能性と透明性の高い環境情報開示の課題を明らかにするため、「資産除去債務に関する会計基準」の初年度適用となった2011年3月期有価証券報告書の開示分析を検討している。
2. 財務報告での企業の環境報告
 前世紀より経済発展と人口増加を背景に、環境問題を含む「持続可能な開発」に向けた企業の責任ある行動と透明性の高い報告が求められてきている。「持続可能な開発」は「将来の世代の要求を満たす能力を損なうことなく、今日の世代の要求を満たすこと」と1987年の「ブルントラント報告」で示された。国際連合やその関連組織において人間の福祉および健康的環境と両立して開発を行うべきという認識が形成された。近年、企業の環境、社会および企業統治(ESG)に関する透明性の高い情報開示を求める様々な国際的動向がある。証券市場の制度開示についても、財務報告で環境情報の開示を促進する諸外国の動向がある。例えばイギリスのイングランド・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)の「環境問題と監査」(2009年)の文書において、環境情報の適切な開示のためには財務諸表監査人の役割が重要であり、監査上の留意事項を示した。アメリカ証券取引委員会(SEC)の「気候変動関連開示に関する委員会指針」(2010年)では、既存のSEC開示規則に準拠して、公開企業が気候変動に関する事業や財務への影響やリスクなど、この問題の開示を検討するための具体的解釈通達を公表した。カナダ証券管理局(CSA)は2010年に「環境報告指針」において、環境リスクや環境債務および資産除去債務など、証券発行者に重要な環境情報の開示を要請した。これらは環境問題への関心や環境法規制の発展を背景に、投資家の意思決定に有用な情報開示のため、複数の環境問題の統合的影響、将来の影響や不確実性を考慮した環境情報の開示を求めるものといえる。
 
3. 資産除去債務の会計と監査
 「資産除去債務に関する会計基準」は資産除去債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理を含む。同会計基準の適用により、企業の環境汚染の浄化や処理等、環境被害に起因する将来の負担など、環境コスト情報を、投資家等に説明できる可能性がある。ただし、同基準では事業継続を前提に使用する有形固定資産、販売用棚卸資産の不動産の土壌汚染調査や土壌修復などの自主的対策の場合は対象外で、環境対策引当金や減損会計適用とされる。よって、企業の環境対策や将来リスクを包括的に説明するには、財務報告の非財務情報を記述する部分などで説明する可能性がある。また、資産除去債務の会計には、将来の見積もりや不確実性を伴うので、監査上の妥当性判断の困難さ、訴訟リスク増大、財務指標、特に利益への見積もりや不確実性の混在、経営者の判断に関する内部統制への留意など、様々な課題がある。資産除去債務の会計の導入により、経営者の業績評価における資産取得活動のインセンティブを増大させ、よって環境コストを増大させるとの指摘もある。
 
4. 資産除去債務の会計の開示分析
 平成23年度3月期の有価証券報告書を提出した「日経225」株式銘柄企業(金融業を除く)204社のうち、日本基準の連結財務諸表作成企業156社の記述内容を分析した。その結果、156社で資産除去債務の会計基準を初年度適用し、63社で適用に伴う損益に与える影響額が「軽微」あるいは「ない」と記述しつつ15社で金額内容を、その他の企業は適用に伴う損益に与える影響額を記載していた。資産除去債務と引当金および特別損失との関係の注記が4社、連結貸借対照表に計上していない資産除去債務がある旨の記載が12社、資産除去債務関係の注記が44社で見られた。44社の注記で「石綿」「アスベスト」「PCB」「鉱山」など具体的環境影響要因を15社が記述するも、業種特性上、環境問題の潜在的財務影響の大きい業種間で記載の具体性にばらつきがあった。附属明細表は特定業種で過年度引当金のある3社を含む4社、セグメント情報は3社、MD&Aでは1社が言及していた。監査報告書では資産除去債務に関連した記載は見られなかった。
 
5. おわりに
 本報告は資産除去債務の会計基準を初年度適用した有価証券報告書の開示での環境問題の説明を検討した。環境問題の不確実性や将来リスクの見積りを伴う会計に対する経営者の説明の重要性が増すことが予想される。財務報告での環境情報開示を促進する制度指針の公表と実務の醸成に期待したい。