寄稿

『独立して感じること〜会計士に求められるもの〜』

第51回 リレー随筆
井上 豪

 皆さん、初めましての方がほとんどだと思います。私は同志社大学卒業後に某商社で営業を経験し、退職後の平成10年に公認会計士第2次試験に合格しました。平成19年10月まで某大手A監査法人に勤務いたしましたが、平成19年11月に独立開業しまして、今年で5年目となります。昭和48年6月5日生まれのピチピチ39歳双子座A型です。
 仲の良い会計士に何を書いたら良いか聞いてみたところ、『独立』について書いて欲しいという声があり、勝手な私の5年間の経験と独立後に感じる事を書かせていただきたいと思います。諸先輩方も多数おられる中、若輩者の経験と意見ですが寛大な気持ちでお読みいただければ幸いです。
1. 独立した時の話

 私が独立したのは平成19年11月ですが、両親は滋賀県の電気屋さんで会計税務的な地盤もなく、独立したところでお客さんの数はゼロ。退職日も深夜まで働いていたため、準備はほぼ何もできない状態で独立の日を迎えました。事務所をどこに構えるかという問題がありましたが、たまたま監査法人時代知り合いになった開業公認会計士・税理士のK先生が私の準備の無さを憂い、自身の事務所の半分を貸してくださいました。収入がゼロになる恐怖はありましたが、なぜか『何とかなるだろう。』という思いはありました。とはいえ生活資金がないため、友人の勤める中小監査法人のIPO案件などを中心として月に何日かバイトをし、独立後の2〜3ヵ月を過ごしました。そんな時、某A監査法人時代のクライアント数社から、『井上さん、独立の準備を何もしてなかったけど、ご飯食べれてる?』というご心配をいただき、無理矢理仕事を作っていただいた事が大きかったです。仕事がない時は、正直に仕事がない!と大騒ぎする方が良いなと痛感しました。時には、交渉に幼い子供も連れて行き、部屋の外で待たせておくような工夫?もしましたね。(この子を育てなければなりません、的な雰囲気でしょうか)
2. 組織がいる!
 独立して3ヵ月を過ぎた頃、自分の事務所で1人遅くまで働いている時に、『このままではアカン!仲間を集めて組織を作ろう!』と思い立ち、有力と思われる方に声をかけ役員4名で平成20年4月に潟Gアーズ経営研究所を設立しました。きっかけは、お客さんから『井上さん、個人事務所じゃなくて会社形態にしてくれたらウチの会社の稟議通しやすいんやけどな』という一言でした。それまでの2〜3ヵ月、1人でできる仕事の規模に限界を感じつつあった私は、この言葉に『すぐに会社を作ります』と即答しました。2〜3ヵ月後には本当に会社を作りましたので、顧問契約のほか、継続的に仕事を振ってくださり、設立当初の貴重な収入源となりました。
3. 会計士にクライアントは何を求めているか?
 そんなこんなで5年が経過しましたが、監査法人を離れて気付くクライアントが会計士に求める声というものがあります。それは、突き詰めると『高度な人格』ではないかと思うのです。監査基準にも書かれている昔懐かしい響きですが、最近はこれかなと思います。
 私が仕事をさせていただく会社というのは、監査法人時代のように資本金や上場といった縛りで監査をするのと異なり、必ず何らかの問題を抱えている会社です。したがって、その問題を解決することが重要なミッションであり収入源となります。独立後に相談を受けた問題は、数値面のみではなく多岐にわたります。例えば、役員と役員の間に入って従業員賞与の支給額を調整する、銀行に頼まれて銀行と会ってくれない社長を説得する、リストラができない社長に代わって会社の現状を従業員に説明してリストラを進める、民事再生や破産の決断を社長に迫る、売上向上意欲のない店長を集め叱咤激励する、新規事業を模索する会社同士を紹介する、などなど。数字の作成、分析はきっかけに過ぎず、実際にしている業務は交渉、説得、説明という場面が多々あります。この時に、いかに相手を納得させることができるかが勝負ですが、そこで『高度な人格』が問題解決を早めることは間違いないと思います。『あの人が言うなら間違いない』とみんなが納得してくれる『人物(知識だけではない)』にならないといけませんし、それを会社は期待していると思うのです。では、どうすればよいか・・・。今なお模索中です。
4. 三方よしの精神
 『三方よし』とは、滋賀県の近江商人の言葉で、『売り手よし、買い手よし、世間よし』という意味で、そういう商売しか長続きしないという教えです。CSR(企業の社会的責任)の発想と重なり近年注目されていますが、滋賀県の商業高校出身の私にとっては、近江商人の生家も授業で見学し大変身近な言葉となっています。この中でも『世間よし』という言葉が最も特徴的であり、私は独立会計士にとっての『世間よし』とは、コンプライアンス的な側面はもちろんの事、クライアント同士の交流によって新しいビジネスが生まれる又はビジネスを成長させる手助けをすること、だと思っています。様々な業種に関わる我々のような人間がハブ的な役割を果たし、会社同士を紹介したり、同業種又は異業種が集まる場を提供することで、海外に負けない日本企業を育成することが『世間よし』の1つであると考えています。例えば、毎年開催しているエアーズオープンゴルフコンペもそのような趣旨であり、参加者全員に会社名、氏名、事業内容、趣味・特技、好きな芸能人、前世(希望含む)、一言コメント、などを書いていただいたエントリー表を事前に作成いただきます。これに参加者の写真を付けて小冊子を作り、組み合わせ表と合わせて当日全員に配っています。コンペ後の懇親会で、この小冊子を見ながら参加者全員を私から紹介することで、同組で回っていない参加者についても会社の事業内容、人柄などを知ることができ、後のビジネスにつながりやすくなると思っています。

5. 最後に
 監査法人のリクルーター時代、就職説明会に訪れる受験生達に、『独立する気で仕事をしてください』と話しました。吸収力、学習意欲が全く異なると思いますし、結果的に監査法人に残ることになったとしても、プラスになる事は間違いありません。会計士の就職難が叫ばれる今日、独立を迷われている監査法人会計士の皆さん、後輩に席を譲るためにも、是非思い切って独立していただきたいと思います。何かを得たい時は、何かを捨てる必要があります。やらずに後悔するなら、やって後悔しましょう!
 最後までお付き合いいただきました皆さん、ありがとうございました。